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出来上がったのは、小さな、真っ黒だがぎらぎらと光る、その光がぐるぐる渦巻く、この上なく不気味な玉だった。
「よし、後は、魔をこの中に注ぐのみよ」
魔導師は、机の下に落ちていた大きな古文書を拾いあげた。
乱雑に扱ったため、傷みが激しくなっていた。
だが彼は全く意に介さない。
彼は紅き宝玉の章の末尾、儀式の項を開いた。
そこには、祭壇の造営や供物、祈祷の方法などが事細かに記してあった。
彼は室内の北東の角に、煉瓦で小さな祭壇を作った。
祭壇の高い所に、出来上がった黒い玉を据え、一段下がった所に供物を並べる。
ドブネズミの干物を三匹、人の目玉を五対、ヒキガエルの舌を二本、焼いて固めた蟻塚を拳一つ分、蠅を捕らえた虫食い花を一輪、それぞれ供えた。
雌の仔猫から採取した脂で二つ灯をともし、長々と古代語で祈祷を始めた。
祈祷は、一晩中続いた。
長く難解な古代語の呪文を、何度も繰り返し、休みなく唱えた。
明け方、その時は来た。
「誰が我を呼ばわる」
祭壇の奥の石壁から、突如古代語で何者かが、こもった声で語り掛けてきた。
かと思うと、石壁の中に、赤黒い、細かい鱗に覆われた、金色に光る眼を持つ顔が出現した。
その顔は四方に猛烈な殺気を放っていた。
マイクラ・シテアは壁に現れた顔に向かって、高笑いした。
「来たな、来たな魔物め!
いひゃひゃひゃ!」
「貴様が呼ばわったか。
卑しい人間供に呼ばれるのは一〇六二年と八日ぶりだ」
魔導師と壁の顔は、互いに軽蔑して睨み合った。
延々無言で、皮肉な笑みを浮かべたまま睨み合っている。
互いに相手をどう欺いてどう殺すか、そればかり考えていた。
が、やがてマイクラ・シテアが口を開いた。
「私は貴様のような下賤の魔物を呼び出してやった。
要件はわかっているだろうな。
その程度もできぬとあらば、やがて私が魔界門を開放した暁に、一番に貴様を、生きたまま賽の目に切り刻んでやる」
そう言われると、壁の中の顔は酷く苦々しげな顔をした。
何かを察知したようだった。
やがて渋々ながらなにやら呪文を唱え始めた。
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