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すると、祭壇に置かれた黒い玉が、ぼんやりと光り始めた。
最初は紫で、緑になり、黄色になり、色が変わるたびにその光は強さを増し、色合いの凶悪さも増した。
やがてそれは、溶岩よりも赤く熱く光り始めた。
まるでその光は、地上の全ての怒りと恨みを凝縮したように見えた。
やがて壁の中の顔は、忌々しげにつぶやいた。
「終わったぞ。
供物はいただいていく」
壁の中の顔は大きく口を開けた。
すると、緑色のどろどろした液体が口から這い出て、供物を順番に取り込んでいった。
「このような下劣な供物でも食いあさらねばならぬとは、下賤も下賤、最下級の最下級だな」
壁の中の顔は、何も答えず、その姿をゆっくりと消し去っていった。
後には、祭壇にぽつんと置かれた、
「紅き宝玉」
だけが残った。
マイクラ・シテアは、その玉に手を伸ばした。
が、すぐに手を引く。
それは溶けた鉄のように熱かった。
「記述のとおりだ。
うまくいったぞ」
魔導師は、気が抜けたのかよろよろと椅子に近寄り、弱々しく腰掛けた。
疲れていた。
当然である。
何日徹夜したかわからない。
彼は健康でもなければ若くもない。
病的で、がりがりに痩せていて、目眩や動悸、頭痛などは毎日だった。
それでも彼は、魔を探求し続けた。
今、初めて彼が望む成果を得られ、少し我に返ったのかも知れなかった。
「不便だの、人間というのは。
人間というくだらぬ器は、早く捨ててしまいたいものよ」
足下に転がっていた火酒の瓶を拾い、栓を抜いて喉に注ぐ。
「それには、魔だ。
魔界門だ」
石壁にもたれ、ずるずると床に尻を落とす。
強い睡魔が彼を襲った。
いつか、彼は深い眠りの奈落に落ちていった。
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