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マイクラ・シテアの記憶は、父親の殴打と母親の蔑視から始まる。
誰が父親で誰が母親かまでは憶えていない。
彼はまだ随分幼かったし、赤子の領域に近い年齢だったように記憶している。
眠れば、よくこのときの夢を見る。
その脅迫観念もあって、彼はあまり寝ない。
薬や催眠、あるいは魔で、ごまかし続けている。
夢中になれる何かがあれば極端に没頭するが、それは逃避に似ていた。
彼が師に拾われたのは、それから幾許も経たない頃だった。
道端で野垂れ死に寸前だったが、師は彼の向こうに無限に広がる魔を見た。
千年に一人の逸材と見た。
師は、幼いマイクラ・シテアを利用しようと考え、拾って魔導を教えた。
マイクラ・シテアは目覚ましい成長を遂げた。
十歳の頃にはもう、師から教わることはなかった。
師は魔導師などのサロンに彼を連れ回し、師弟は一躍有名になった。
師はささやかながら富を手にした。
その頃、マイクラ・シテアは、ある書物と出会った。
より深い狭間の世界に関する古書だった。
その時初めて、魔導とはいかなるものか、つまりそれは魔界と現世の狭間の力を引き出しているのだ、ということを知った。
ならば魔界とは。
またその書は、狭間の世界のうち、より深い層の力を引き出すすべを彼に与えた。
ある日、彼は試しにその力を使い、野良犬を殺してみた。
犬が、瞬時にミイラになった。
別の犬を何百枚かのスライスにもできた。
空間の裂け目を作り、どこへでも瞬時に移動した。
彼の奇行は、噂になった。
彼は次第にサロンから忌み嫌われはじめた。
師は彼を責めた。
裕福になって太った体を揺らしながら、マイクラ・シテアに詰め寄った。
「貴様は、大人しくサロンで芸をしておれ。
誰のおかげで生きていられると思ってる」
師は酔っていて、気が触れたように叫び、マイクラ・シテアを殴った。
マイクラ・シテアの脳裏に、彼の最初の記憶が、弾ける様によぎった。
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