魔導器

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 その時にはもう、師は全身の毛穴から血を吹き出し、見る見る枯れていった。 師はひゅうひゅうと声にならない悲鳴を上げた。 太った体から全ての血が搾り出され、次に脂肪も流れて、立ったままカラカラのミイラになった。  マイクラ・シテアは、湧き上がるような快感を覚えた。 「俺は、力がある。  誰だって殺せる」 「どんな殺し方があるのかな」 「魔を極めたら、一体どれだけの人間を殺せるんだろう」 「楽しいな、楽しい」  理不尽な大人達の振る舞いに対する答えが、マイクラ・シテアという天才を媒介にして、世に下された瞬間だった。  彼は魔の研究に没頭した。 たまに鬱憤がたまると、人を殺した。 それがまた彼を、魔に近付けた。 狭間の世界から、無数の怨霊が彼を拠り所として集まった。  ある時彼は、ほとんど失われた古い伝承を知る。  大賢者ソルド率いる神の兵団と、魔導師ブサナベン率いる魔族の戦争だった。  ブサナベンは魔界に限り無く近付き、無数の魔導器を生み出し、魔界から魔族の大群を呼び出した。 世界は蹂躙されかかった。 が、ソルドの軍勢に破れ、ブサナベンは死に、魔の力は全て封じられた。  マイクラ・シテアは気付いた。 「封じられたとすれば、残っているのではあるまいか」  彼の研究は、知らず数十年続いた。  やがて彼は、千年前の争乱について、幾つかの伝承を知った。  一つは、ソルドの他に、ドルアーノ、リーファという者がブサナベン討伐に関わったこと。 一つは、ブサナベンが書いた書物が、廃棄できずに残され、トルキスタ聖教の聖地に残っていること。 そしてあと幾つかの知られざる封印がこの世に残されていること。 それはブサナベンさえもついに解けなかった超古代のものらしかった。  やがて彼は、ブサナベンの書の在処を突き止めた。 バザ大聖堂だった。  封印の解除方法はバザ大聖堂の大司教が代々受継ぐ秘匿だった。 封印は、他の手段では決して破れない。  彼は考えた。 「ならば、大司教に破らせればよい」
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