氷壁

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 シ・ルシオンは低く呟いた。 彼は昔話に興味がなかった。 「魔が敵で、そこに戦場があるなら、それを倒すだけだ」 「あなたはすぐそんな風に」  リーファは哀しげな目をした。 シ・ルシオンは黙殺した。 「そんなことより、ソルドとかいう男の遺言だ。  お前が自分自身を封じると?」 「はい。  聖地ラダに」 「それはどこにある?」 「ここから北に二日ばかり歩いた所の、山中です」  リーファは白く細い腕を上げ、北を指差した。 夜中であり、闇夜の先には何も見えない。 だかシ・ルシオンは知っていた。 リーファの指す先には、中腹より上が万年雪に閉ざされた険しい山がある。 「封じるとは、あの万年雪に埋まって死ぬということか」  淡々と戦士はリーファに尋ねた。 が、リーファは首を左右に振った。 「私は、精霊です。  失われる事はありますが、死ぬ事はありません。  ただ、ソルドは、私以上に私の力を熟知していました。  何かしら、彼の考えがあるのでしょう」  シ・ルシオンは全く理解できなかったが、それ以上深く追及するのを諦めた。 どうせリーファにもわかっていないであろうと思えた。 「いずれにせよ女だけでは無理だろう」  シ・ルシオンはリーファに、自分と一緒に向かう様促した。 リーファは素直に従った。 「私は、今日の様な凍える夜にしか姿を見せられません。  動くことも」 「そうか。  やむを得まい」  シ・ルシオンは責めなかった。  二人は夜を徹して歩いた。 シ・ルシオンは並外れて屈強な上に旅慣れていたが、リーファはすぐに足を傷めた。 シ・ルシオンはリーファを背負って歩いた。 氷を背負う様に冷たかったが、彼は眉一つ動かさなかった。
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