氷壁

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 リーファの言ったとおり、彼女は夜が明けると、雪が儚く消える様に、小さな悲鳴と共に姿を消した。  シ・ルシオンはそこで足を止めた。 柴を集めて火を起こし、暖をとりながら、ようやく休んだ。 背中は冷たく痺れ、痛みも酷かった。 疲れていた。 それでもなお彼は、苦痛に顔を歪めることはなかった。  その日は昼前から吹雪いた。 凍えるのを避けるため、雪で三方に壁を作り、風をよけた。 干し肉をかじり、壁の中で火にあたりながら、彼は眠った。  夕刻、闇が辺りを占めた。 吹雪はまだ続いていた。 火を焚いていても、随分凍えた。  不意に人の気配がした。 リーファだった。 「来たか」  シ・ルシオンはただ一言、それだけ言って、リーファを背負おうとした。 「今日はやめましょう、吹雪だし、あなたも疲れ過ぎです」 「構わぬ、早くしろ」  リーファは、この男に何を言っても通じないことを悟った。 「なるだけ無理なさらないで下さい」  答えはなかった。  山地に差し掛かった。 ただでさえ険しい隘路である上に、深い雪で足取りもままならず、旅程は難渋を極めた。 巨大な剣を杖代わりにし、リーファは片手で背負った。 剣を捨てれば楽なのだろうが、シ・ルシオンにはそんな考えは全くなかった。 「私を降ろして」 「歩けるはずもあるまい」  シ・ルシオンは頑として受け入れない。 リーファは泣きながら背負われていた。  永遠に続くかと思えた吹雪の夜も、やがて終りを迎えた。 風と雪は穏やかになり、辺りが白々と明るくなってきた。 程なくリーファが、不意にいなくなった。 背中の重さと凍て付く冷たさが開放される。 少し気が緩んだか、うなりながら両膝を雪に埋めた。 背中全体が半ば凍傷で、常人ならばとうに死んでいた。 空気もやや薄くなり、息苦しかった。  彼はまず、例によって雪壁を作った。 雪をすくう剣が、岩をすくっているかの様に重かった。 昨日よりも余程時間がかかった。
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