氷壁

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 ようやくなんとか横になれる程度の囲いができた。 手近な木の枝を集めて、火を起こす。 疲れが酷く、難渋した。 やがて火が点いた。 初めて彼は、一息ついた。  彼はかつてなく疲れていた。 乱戦で軽々と百人斬りをやってのける彼が、疲れた。 だが彼は、そのことに不思議な充実を感じていた。 「この世は、面白い」  彼は退屈していた。 強すぎるだけに、敵に事欠いた。 リーファが現れ、マイクラ・シテアが現れた。 酷く手のかかる女と、遭遇したことのない種類の敵。 しかもマイクラ・シテアは、最強の敵であった。  焚火がよく燃えた。 冷えきっていた体が少しずつ温まり、ようやく彼はうとうとし始めた。 桁外れに強靱な体は、回復も驚異的だった。 日が昇り、やがて陰る頃には、もう立ち上がって準備できるぐらいになった。  夜になった。 この日は晴れで、星々が満天を飾った。 三日月が雪の山中をささやかに照らす。 風は弱い。 ただ冷え込みは厳しかった。  リーファが姿を現した。 彼女はうかない顔だった。 「あなたを見ているのが、辛いです」  彼女は言った。 「くだらぬ。  行くぞ」  シ・ルシオンは全く取り合わない。 「そんなことより、あとどれぐらいで、聖地とやらに辿り着くんだ」 「あっ、それは、はい、今日の夜半過ぎには」 「わかった。  乗れ」  シ・ルシオンはリーファを背負うためにしゃがんだ。 彼女はためらったが、無駄と諦めて、巨大な背中にすがりついた。 氷の様な冷たさを除けば、女一人背負うのなど、実に取るに足らぬ事だった。 何も背負っていない様に軽々と立ち上がり、巨大な剣を片手にシ・ルシオンは雪道を歩き始めた。  昨夜の難渋と比べれば、今夜は旅程がはかどった。 リーファが不思議な力で正確に道案内してくれるため、迷いとも無縁だった。 途中崖があったが、シ・ルシオンは戸惑いもせず、リーファにしばらくしがみつかせて、瞬く間によじ登った。
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