氷壁

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 夜半過ぎ彼らは、山の中腹で、斜面を平らに切り開かれた場所に出た。 広くはない。 雪に半ば埋もれて、ともすれば見過ごしそうな程度だ。 菱形で、一番手前を除く三つの隅に、尖った岩が置かれている。 三つの岩はもしかすると、トルキスタ聖教の三つ又槍を意味しているのかも知れない。 岩と岩は、シ・ルシオンの足で十歩といったところだ。 「ここです」  リーファはシ・ルシオンの背中から降りた。 「ありがとう。  私、なんと言ったらいいか」  彼女はうつむいて、震える小さな声でそう言った。  シ・ルシオンは応えなかった。 一人岩陰に寄り、そこに腰を降ろした。 そのままリーファの様子を静かに眺めている。 「私は、もうここからどこへも行けなくなります。  でも私には、神から与えられた、全てを見る眼があります。  私はあなたをいつでも見ています。  あなたの望む全てを見て、伝えられます。  だから」  堰を切った様にリーファは、必死な口調で叫び、そして言葉に詰まった。 「私はまた、あなたに会いたい」 「そんなことより」  シ・ルシオンは低い声で遮った。 「封印を、早くしたらどうだ。  お前と俺はここまで、そのために来たはずだ」  リーファの顔がこわばった。 哀しげな眼に涙が溢れた。 「わかりました」  彼女は嗚咽しながら、四つの岩の中心に進んだ。 何かぼそぼそと呟いた。 すると、地面が激しく揺れ、彼女の足下すぐ前から何かが生えてきた。 それは天に向かって伸びる巨大な氷柱だった。 氷柱はシ・ルシオンの背丈を軽く越え、岩壁を覆った。 山中にくりぬかれた舞台の山肌側は、完全に氷壁で埋め尽くされた。 シ・ルシオンは居場所を追われ、飛び退きながらその様子を見守った。 氷柱は今や氷壁となった。  氷壁の拡大が止まった。 ごつごつした氷壁は、上を見上げても、その先端は夜闇の奥に紛れて見えない。 氷は透き通り、純度は高かった。
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