魔物

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 巨人はしばらく黙っていた。 真っ白な長い髪も、限り無く鍛えぬかれた鋼の様な肉体も、剣も、全てがずぶ濡れだった。 「そうだ」  野太い声で、巨人は応えたが、そのまま黙った。 ローブは多少気まずく思い、言葉を探した。 「俺は、ローブ。  こないだ、あんたに助けてもらった」  それでもシ・ルシオンは、岩の様ないかつく険しい表情を、微塵も動かさない。 ローブは多少いらいらしたが、今度は用件をいうことにした。 「俺はトルキスタ聖教の僧侶だ。  教会が、マイクラ・シテアという魔導師の討伐を目指している。  俺はあんたの噂を聞いて、探していた。  あんたの力を貸して欲しい」  稲妻が閃き、激しい雷鳴が後を追った。  シ・ルシオンは、なお微動だにしない。 ローブは不安に思った。 だが、用件を伝えた後では、もはや続ける言葉も見つかりそうになかった。  果てしなく続く沈黙は、不意に破られた。 「マイクラ・シテアとやらは、どこにいる?」  ローブは、ずぶ濡れの顔で、華やかに笑った。 「探している。  あいにく見つかってない。  バザで三年前、俺は遭ったが、それから消息が途絶えた」 「奴に遭ったのか」  ローブは、シ・ルシオンの周りに、ゆらゆらと陽炎の立ち上ぼる様な錯覚を覚えた。  それは闘気とでも言うべき物だった。 「話を聞こうか」  その低い声は、豪雨にかき消されることなく、ローブの耳に届いた。 「酷い雨だ。宿へ行かないか」  ローブは親指で馬車を指し示した。
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