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ザナビルクのトルキスタ教皇庁へ、ローブは久々に帰ってきた。
三年振りだった。
教皇庁は世界最大、バザ大聖堂の倍以上の規模を誇る。
トルキスタ聖教自治区の政府機能を持つ。
ザナビルクは南北に延びる中心道路があり、その途中に教皇庁がある。
またそれと交錯するように、東西の道路がある。
東西の道路は程なく北に折れ曲がり、この二つの道路が、トルキスタ聖教の象徴である三つ又槍を形成している。
南中の時刻には、聖なる太陽から伸びる巨大な槍となる、と言われている。
無論ザナビルクは、聖地の一つである。
バザへ調査に向かったのが三年前。
当時はまだ少年だった。
今は十九。
そろそろ青年と呼んでもいい。
バザへは、地下の封印破壊と魔導師狩り、コロネオの自殺や聖騎士団虐殺など、一連の事件についての調査が目的だった。
若年の彼がこの調査を命じられたのは、他に希望者がいなかったこともあるが、彼自身がこの事件の異様さを、上に対して強く主張したからだった。
うるさがられた彼は、だったらお前が行け、という形で、調査を丸投げされた。
腐敗した教会自治政府は、ひたすら隠蔽したかったらしい。
「別に俺は、正義の味方でもないけど」
しかし、許せなかった。
許せなかったのは、首脳達の無能さだった。
「これが本当にやばくないと思えるその感性が、俺には理解できない」
それから三年、ある程度満足のできる調査結果を持って、彼はザナビルクへ帰還した。
すぐに教会に報告しようかとも思ったが、彼は別な手を使うことにした。
程なく、噂がザナビルクの街に溢れた。
「神が怒っておられる」
「魔族が侵略してくるらしい」
「バザ大聖堂は近々破壊されると言うぞ」
「魔族はこのザナビルクを狙っているらしい」
さらに、方々で墓荒らしが発生し、死人が夜中に徘徊するのも目撃された。
ある教会では、トルキスタの三つ又槍が折られ、べっとりと血糊が付いていた。
極め付けに、白昼の市街に、巨大なトカゲの化け物が現れた。
全てローブが仕組んだ事だった。
ちなみにトカゲの化け物は、外国から取り寄せたワニであった。
そこへローブが調査を終えたとひょっこり現れる。
「貴様の報告に付き合っている暇はない。
町中で奇怪な事が、連日続いているのだ」
「何ですって!
もう魔族の侵略がこの聖なるトルキスタまで!」
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