魔物

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 ローブは懐から、聖典を取り出した。 「レナの書、八十二章」  ローブが短く言う。 一瞬の間を置いて、ハゼンがしわがれた叫びを上げた。 「大魔導師ブサナベンか!」  老人はよろよろと立ち上がり、震えた。  ローブはゆっくりとうなずいた。 「そう、かつて大魔導師ブサナベンならば、できたのです」 「しかし、ブサナベンは大賢者ソルドによって滅んだはず」  中年の司教が低く言って制した。 しばらく沈黙が続く。  ローブが口を開いた。 「バザの封印の部屋に、何があったと思われます?」  会議室に、緊張とざわめきが起こった。 「百三十八冊の、古代の聖典が残されていました。 そしてその聖典が示すには、あと二冊、奪われるべくして奪われた古文書が一冊と、さらに隠された一冊があったはずです」  ローブは、居並ぶ面々をゆっくりと見回した。 「隠された一冊については詳しいことが全くわかりません。 しかしマイクラ・シテアという魔導師が奪った古文書。 これは、古代の大魔導師ブサナベンが、魔の深遠に潜むなにがしかと交した契約の書であると、記されています」  部屋は、魔という言葉に沈黙した。 人間同士の戦乱には慣れていたが、神や魔は、あくまで神話の話であり、誰も心底信じてい たわけではなかった。 だが、バザの封印に絡む一連の事件は、それを突き付けてきた。 「これら百を越える聖典は、どうやら全てソルドその人が記した物と思われます。 その目的は恐らく、後世の人々がブサナベンの古文書と戦うためです」 「馬鹿な、そんな荒唐無稽な話、誰が信じられる!」  ロドがテーブルを拳で叩いた。 「貴様の目的は何だ、この様な非現実的な話で、我々を困惑させて、何をするつもりだ!  事と次第によっては、今ここで貴様を斬る!」  ロドは左腰の段平の束に右手を添えた。  だがローブは全く怯まない。 それどころか、猛烈な眼光と怒声で、ロドを威圧した。
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