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「ならばあなたは、バザで千人の騎士が刹那で殺された事実を、あなたのところに幾度となく報告が届けられているはずの事実を、この期に及んでなお否定されるのですか!
あなたはあの事件以降三年間、この教皇庁で何をしておられたのですか!
あなたは、自治区の民衆、トルキスタを信じる人々に危機が迫るかも知れない事件に対し、信じられないというだけのくだらない理由で、確認もせずに無視し続けた!
仮にも聖騎士団を束ねる立場のあなたがだ!
マイクラ・シテアに殺された騎士たちの遺族がそれを知ったら、あなたは恨まれ、殺されるでしょう。
その覚悟あっての振る舞いなのですか!」
そのあまりに凄まじい、雷鳴の様な殺気に、全員が震え上がった。
直ちに全員が、自らの死を確信した。
果てしなく長い数秒の沈黙を置いて、若者は再び口を静かに開いた。
「ロド様が、そのお立場上、聖騎士団の誇りを擁護されるお気持ちも、判らないではありません。
しかし今は、来たるべき魔の侵略に備えるべき時です。
あなたはこの教皇庁の聖騎士団、つまり最精鋭を束ねるお方。
まずあなたに動いて頂きたいのです」
ロドは顔を苦々しく引きつらせながら、しかし言葉もなく、ただ息苦しげだった。
「バザの事件の折」
ローブがぽつりと言った。
「魔導師マイクラ・シテアを追払った者がいます」
その言葉に、会議室に色めいた空気が走った。
「シ・ルシオンという者と思われます」
「何?!」
ロドは鋭く呼ばわった。
「確かか!」
「聞き回った限りの風体などからは、恐らく間違いなかろうとの事です」
「何者かね、ロド殿?」
誰かが尋ねた。
「屈強な傭兵です。
各地の戦場に現れては、何百という兵をたった一人で殺す化け物です。
我々の様な最近の軍人で、シ・ルシオンを知らない者はいません。
奴が戦場に現れたら、決して戦ってはならないと言われています」
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