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「そうでしたっけ」
「そうだ」
「あはは、まあ、どっちにせよ、僕は一度バティルへ行きたいですね」
毎日の掃除や祈祷以外にこれと言ったしがらみや仕事のないローブは、翌日にはバティルへ出かけてしまった。
路銀はハゼン老人を適当に言いくるめて調達し、足には教皇庁の馬車を勝手に拝借した。
「清々した」
と、馬車の上で伸びをした。
彼には、教皇庁での生活は退屈過ぎた。
良い口実を見つけたから、迷わず飛び出した。
バティルはおよそ十日掛かる。
二つ国境をまたぐ。
通常国境ではしばらく足止めされたりするが、トルキスタの僧侶はどこへ行ってもわりと無条件で敬われていたから、難なく通過した。
これは前の旅の経験で知っていた。
バティル近郊まで来れば、魔物の噂をそこかしこで耳にした。
町外れの森で見掛けたらしい。
なんでも熊の様な大きさで、腹に巨大な口があり、それで数人食ったという。
まだ街には出てきていないが、市民は眠れぬ夜を過ごしている。
街に入る。
とりあえず宿を探し、長旅の疲れを癒す。
しばらく滞在するつもりだった。
「ま、会えたらいいね」
と、気楽に構えていた。
シ・ルシオンが現れる確信などなかった。
ただ、可能性はあると踏んでいた。
「生きてればね」
夜には酒場へ繰り出す。
手頃な女を見つけては、宿に連れ込んで抱いた。
「あなた、トルキスタの僧侶でしょ?
バチ当たりね」
「まあね。
なりたくてなったわけじゃないけどな。
俺は可哀相な戦争孤児さ」
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