魔物

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 この時代、各地で戦乱が絶えなかったため、戦争孤児は珍しくなかった。 ローブもそうした孤児で、教会が経営する孤児院の育ちだった。  バティルに滞在して一月経過した頃、ある夜中に、騒ぎが起こった。 「化け物だ!  魔物だ!」  ローブは女二人はべらせて寝ていたが、恐ろしく俊敏に飛び起き、瞬く間に備えをして宿を飛び出した。 騒ぎの方へ走る。  やがて、毛むくじゃらの化け物が、民家を壊して中にいた人間を食っているのを見つけた。 なるほど、樋熊ぐらいの大きさで、腹に巨大な口がある。 その口から、女の足がはみ出ている。 が、すぐにバリバリ食われた。 紫色の分厚く長い舌で、舌なめずりしている。  しばらくすると数十人の兵士が化け物を取り囲んだ。 が、化け物は、その体に似合わない素早い動きで兵士たちに襲いかかり、二人捕まえ、食べた。 兵士たちは、半数が腰を抜かして失禁し、残りは逃げた。 腰を抜かした兵士は順番に食べられ始めた。  ローブは近くで見ていた市民から松明を取り上げ、 「逃げろ!  食われるぞ!」 と追い払った。  ローブは松明と適当な棒を構えて、食事中の化け物に近付いた。 松明を投げ付ける。 化け物は、低い唸り声を上げてローブの方を向いた。 腹にある口にずらりと並んだ巨大な鋭い歯をガチガチ鳴し、その口が下品にニタリと笑う。  いきなりその口が目の前に来た。 思ったより速い。 すんでのところで交わし、回り込む。 化け物はゆっくりとローブに向き直り、猛烈に吠えた。  ローブは、辺りに散らばる兵士たちの武器に飛び付いた。 槍を掴み、構える。 が、もう化け物は目の前にいた。 丸太の様な腕で殴られ、ローブは枯れ葉の様に吹っ飛んだ。 そのまま彼は意識をなくした。  目を覚ますと、ローブは宿の寝台にいた。 近くにいた宿の亭主が気付いた。 「目が覚めたか、良かった」  白髪で痩せぎすだが清潔そうな亭主が声を掛ける。 動こうとすると、頭に激痛が走った。 「駄目だよ、動いちゃ。  三日も気が付かなかったんだ」  そう言われると、ローブは動くのを諦めた。 こういう時は案外聞き分けがいい。
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