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「やがてこの者は、魔界門を開放し、魔族の大軍をもって地上を蹂躙するでしょう」
ドバイルには、全く理解できなかった。
「それは、宗教闘争か何かですか」
というのが、率直な感想だった。
だが、ローブの答えは、違った。
「であれば、私はあなたの助けを借りに来たりしません。
大陸最高と言われる軍略家の知恵が必要だから、来たのです。
世界の人々が力を合わせて、マイクラ・シテアと戦わねばなりません。
それをどう率いるのか。
それを託せる軍略家として、トルキスタ聖騎士団の将ロドより、あなたのお名前が上がりました」
ドバイルは返答のしようがなかった。
体よく断ろうかとも考えたが、ロド将軍の名が出てくると、微妙だった。
ロドは現実主義な軍人と聞いている。
まやかしの類いで動くとは思えない。
それに、ドバイルには、どうもこの青年が、嘘を並べているとは思えなかった。
宗教の幻想とは無縁の、意外に思慮深い人に思えた。
「考えさせて下さい。
私は今この砦を預っているし、必要な力があるかもわからない。
それに私は、そう長くない」
ドバイルは、痩せた顔を儚くほころばせた。
「私は病なのです。
軍医には、あと三年と言われています」
ローブの表情が凍り付いた。
何かしら言葉を探した様だったが、やがて力なく、
「そうですか、ご無理をさせてお時間いただき、申し訳ありません」
と、うなだれた。
ものの数分もしないうちに、ローブはいかにも居心地悪そうにして、逃げる様に帰っていった。
ドバイルの日常は忙しい。
その日も翌日も、砦防衛の戦略は勿論、近隣住民への配慮、本国から要請されている他の地方の防備戦略の検討、そして自身の余命を考え、後継者の育成も検討しなければならなかった。
食事は仕事をしながら摘める軽食が主で、睡眠も短い。
それほど忙しいのに、彼の脳裏には、昨日の来訪者がこびりついて離れない。
「いかにも荒唐無稽だが」
言っていることは狂人のそれに近く思えるが、マイクラ・シテアがバザの惨劇を、どうやら一人でやってのけたというのを考えると、不気味だ。
それにドバイルには、自分の死期を言った時の落胆ぶりが、酷く気になった。
ドバイルは助手のフォルタに、
「昨日のお客人をすぐ呼び戻してください。
トルキスタ教皇庁方面のはずだ」
と命じた。
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