奔走

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 二日後、ローブが姿を見せた。 「よかった」  ドバイルは思わずそう呟いた。 「あまり私は勘を頼りにはしないのですが、なぜかあなたの話を、詳しく聞きたくなったのです」 「よかったです」  ローブは安堵の笑みを浮かべた。 笑うと少年の様に見えた。  夕闇が窓の外を包み始めていた。 ドバイルはいくつかのランプを灯し、煖炉にも火を入れさせた。 「マイクラ・シテアという者は、つまり何者です?」  一国の将軍が座るには随分粗末な椅子に腰を落ち着け、ドバイルは最初にそう尋ねた。  ローブは速やかに応えた。 「死の魔導師です。  太古の教典にも同様の者が登場する、死者を自由に操る者です。  今は、そうです」 「今は?」  ドバイルはさらに尋ねた。 「かつては、火や破壊を扱う、一般的な黒魔術の達人でした。  しかし、伝承に残る紅い宝玉の完成を皮きりに、伝説の大魔導師ブサナベンの残した秘術を次々に再現しています。  特筆すべきは魔界の力の召喚と、それを使った死者の操作です。  紅い宝玉は死者の魂を収集でき、それを物に据え付けたら、魔導器ができます。  シ・ルシオンが現認したのは、おびただしい死者の軍勢です。  愚鈍な魔物に紅い宝玉を埋め込めば、人間の知性を持った魔物が生まれます」  ローブは身震いした。 「かつてブサナベンは成し得なかったのですが、不死王と呼ばれる、魔王にすら対抗しうる力を手にするかも知れません。  すると、歴史上に生きた全ての生命が、永遠にマイクラ・シテアという牢獄に閉じ込められ、あらゆる拷問を永遠に受け続けるでしょう」
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