奔走

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 バザの惨劇から、いつしか十年あまりが過ぎた。 マイクラ・シテアは相変わらず時々現れては、シ・ルシオンに追い払われる。 その頻度は年々徐々に増える。 ローブはその様子を注視しつつ、一方で多忙な日々を送っていた。  彼はシ・ルシオンの活躍で、徐々に教会における地位を獲得していった。 ロドと共に聖騎士団の強化に努め、マイクラ・シテアにより被害を被った町に赴き、復興を援助した。 また魔界門や聖地の研究もしていた。  その関係でローブは、バザを訪れていた。  バザには、親しい顔見知りがいる。 以前バザの惨劇の復興支援で滞在した時に知り合った女性の神官だ。 「あら、嫌だわ。  軽薄な人が来た」 「普通、いらっしゃいとか、久し振りとかだろう」  バザ復興の立役者とも言える女で、フェリスという。  六年前に初めて出会った時、ローブはこう叫んだ。 「なんであんたがここにいるんだ」  彼女は、リーファと瓜二つだったのだ。 最近は、リーファの方が若いままで、フェリスは徐々に老けているから、多少違って見える。 髪の色も違う。 が、それにしても似ていた。 「景気はどうだ」 「街はね、お陰様でいいと思うの。  見てのとおり綺麗になったし。  慰霊碑を見ると、辛いけど。  あなたとロド将軍のおかげで、聖騎士団の皆さんも立派になられたわ。  それに引き替えこの教会は、相変わらず貧乏よ」  初めて会った時、彼女はバザの復興の中心人物だった。 惨劇から数年は、街は酷い有様だった。 統治を失った自治区は、夜盗や売春婦、路上生活者で溢れ、病が蔓延していた。 何より無気力だった。  彼女は惨劇の直後から、惨劇の犠牲者やその家族を見舞い、助けた。 が、荒れる一方だった。  やがて彼女は、街区を一人で修理し、清掃し始めた。 毎日毎日、ひたすらである。 体中傷だらけで、随分汚かった。 馬鹿にする者も毎日現れたし、襲われる事もあった。 強姦さえされた。 気が狂いそうになり、何度も自殺を試みるほどに、底知れぬ苦痛であった。 しかしそれでもなお彼女は、結果的に投げ出さなかった。  やがて、少しずつ賛同が集まり、バザの復興が始まった。  ローブが彼女と出会ったのは、その頃である。
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