奔走

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「シ・ルシオン様はお元気?」  小さくてあまりに粗末な教会の、朽ちた不揃いな椅子に腰掛けたローブの所へ、フェリスが温かい茶を運んできた。 ローブはこの茶が好きだった。 一口で安物と判るのに、煎れ方が抜群に上手かった。 教皇庁の料理人が出す茶は、金と表つらの技ばかりが感じられ、どうすれば美味くなり、飲む人の心地を良くできるかという、気迫の様なものが感じられない。 フェリスのには、それが感じられた。 「元気さ。  人間じゃない。  ただ、相手が悪い。  直接対峙できたら勝負になるだろうけど、何処に現れるかわからないし、現れてもすぐ逃げる」  ローブはシ・ルシオンの苛立ちを感じていた。 彼の到着した頃には、ほとんど事は終わっており、精々魔物を始末する程度でしかなかった。 確かにそれも大切である。 が、徒労感が漂う。 「痛いのは、化け物どもが、その辺の兵団では手に負えないほど強い事だ。  町の警護兵程度なら、すぐ喰われて終わりだ。  聖騎士団の最精鋭でも、一匹で二、三十は必要だ。  それでも何人喰われるか」  ローブは身震いした。 彼自身、以前魔物に殺されかけた。 シ・ルシオンがいなければ、今彼はここにいない。 「一日、いや、二日でいい。  それだけの時間で現場にシ・ルシオンを運べたら」  彼にしては珍しく、うつむいて険しい顔をし、ため息を二度もついた。  立ったまま黙って聞いていたフェリスが、穏やかに声を掛けた。 「悩むのも、考えるのも、素晴らしいことだと思うわ。  でも、時には祈るのも大切よ。  祈りは私に、私が孤独でない事を教えてくれたの」  彼女は少し笑った。 「それにあなたは、トルキスタの僧侶よ」  それまで険しい面持ちだったローブの顔が、柔らかくなった。  二人は祭壇の前に並んでひざまずき、それぞれ手を組んで、祈りを捧げようとした。  その時ローブは、祭壇に掲げられた肖像画を見て、気が付いた。 「そうか、神の御者ドルアーノか」  彼は呟いた。  が、すぐに彼は首を小さく横に振った。 「駄目だな、ドルアーノの馬車なんて、夢物語だ」
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