奔走

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「そうかしら」  祈りの姿勢を崩さないまま、フェリスが返した。 「あなたが見たリーファ様が本物なら、彼女には見えるかも知れない」  ローブはしばらく言葉を探し、やがて言った。 「祈ろう」  一か月後、教皇庁へ戻ったローブは、魔物の討伐に出掛けているシ・ルシオンを待った。 十日後、首尾よく魔物を片付けて、戦士は帰ってきた。 「リーファに会いに行こう」  戦士は一呼吸黙った後、 「ああ」 と低く応えた。  その日の夕方には、二人は馬車に揺られていた。 例によって巨人が馬車の中、ローブが御者だった。 「あんた専用の移動手段を作ろうと思ってる。  ドルアーノがそうしていた」  最近、街道は荒れている。 どの地方でもだ。 元々はトルキスタ聖教の教えで、多くの人々が勤勉だったが、教会の堕落が進み、列強のモラルも崩壊し、治安は乱れ、内乱や戦争が多発していた。 特に最近は、バルダとホルツザムの戦争が激化している。 「バルダの将ドバイルは若いながら強く、歴戦の英雄として名高いホルツザムのバルザムが、最近は劣勢に立たされる事がある様だ。  無論ホルツザムは強いから、そう簡単に形勢逆転はしないだろうけど」 「バルザムか」  めずらしく幌の中の巨人が喋った。 「知ってるのか」 「ああ」  若い頃、彼は戦場を転々としていた。 ホルツザムは戦争好きの国で、かの国が絡む戦は多かったから、それに何度か参戦した。 勝ち戦にあまり興味がないため、もっぱら敵方だった。 バルザムは豪胆な様で狡いところがあって、敵方にシ・ルシオンが現れると、直ちに兵を退いた。  バルザムはこう言ったらしい。 「奴は火山だ。  火山の火口に何万の兵を注ぎ込んでも、得るところはあるまい。  火山は避けるべきだ」  その作戦が噂で広まるに連れて、シ・ルシオンは戦場を失っていった。
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