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ホルツザムとバルダの戦いにおいて、ザーグ砦は決して外せない要素である。
両国の国境線は険しい山地が多く、主要な街道が一本しかない。
大軍は当然そこを通る。
元々ザーグ砦は、バルダがホルツザムに対する防備としてこの街道に築いたもので、いまだ陥落したことはない。
ホルツザムが執拗にバルダを狙うのは、資源や農地の拡大が目的だ。
大義名文は違う。
しかし自国の民を喰わせ、権力者自らを富ませるために、侵略する。
民族性なのか、ホルツザムは昔からそうだった。
対するバルダは、あまり侵略はしない。
隣国ホルツザムの圧力を常に受けていたからかもしれないが、反撃しても必要以上に攻めないことから、やはり民族性かも知れない。
ザーグ砦はこの時、ドバイルという若者が守っていた。
ホルツザムは、歴戦の英雄バルザム。
長いザーグ砦の歴史で初めてこれを陥落させようと、かなりの兵力を注ぎ込んできた。
対してドバイルは、砦前の川を巧みに利用した。
ホルツザムの渡河作戦が始まると、上流の堰を開けて、ホルツザム兵を流した。
二回目には、水中に潜んでいた兵に馬の脚を斬らせた。
そこへ矢の雨が襲いかかればたまらない。
「おのれ小僧!」
バルザムは怒り狂った。
とりあえず彼は、上流の堰を支配することにした。
が、当然ドバイルも警戒している。
かなりの数の兵で守っているだろう。
「奇襲部隊十名、志願を募る」
奇襲部隊が混乱を起こしたあとで、数百規模の兵で堰を占領する。
だが、奇襲部隊は決死である。
この奇襲部隊に、一人の若者が志願した。
「オデュセウスと申します」
農民上がりの下級兵士だった。
武術、馬術、度胸共に兵士達の間で話題になっているらしい。
背が高く引き締まった端整な顔立ち、浅黒い肌と黒髪が印象的だった。
オデュセウスをはじめ、計十一人の志願者が集まった。
いずれも精悍で将来有望な面々だった。
早速その夜、彼らは曇天の闇夜に紛れて進発した。
後続の部隊二百もそれに続く。
さすがに暗く、道は難渋した。
が、奇襲隊は互いに励まし、意気を上げながら進んだ。
やがて堰に近付いた。
林の向こうに篝火が焚かれ、警護兵の姿も見える。
意外に警護は手薄で、こちらに気付いた様子もない。
距離はそう遠くない。
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