奔走

7/13

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
 ホルツザムとバルダの戦いにおいて、ザーグ砦は決して外せない要素である。 両国の国境線は険しい山地が多く、主要な街道が一本しかない。 大軍は当然そこを通る。 元々ザーグ砦は、バルダがホルツザムに対する防備としてこの街道に築いたもので、いまだ陥落したことはない。  ホルツザムが執拗にバルダを狙うのは、資源や農地の拡大が目的だ。 大義名文は違う。 しかし自国の民を喰わせ、権力者自らを富ませるために、侵略する。 民族性なのか、ホルツザムは昔からそうだった。 対するバルダは、あまり侵略はしない。 隣国ホルツザムの圧力を常に受けていたからかもしれないが、反撃しても必要以上に攻めないことから、やはり民族性かも知れない。  ザーグ砦はこの時、ドバイルという若者が守っていた。 ホルツザムは、歴戦の英雄バルザム。 長いザーグ砦の歴史で初めてこれを陥落させようと、かなりの兵力を注ぎ込んできた。  対してドバイルは、砦前の川を巧みに利用した。 ホルツザムの渡河作戦が始まると、上流の堰を開けて、ホルツザム兵を流した。 二回目には、水中に潜んでいた兵に馬の脚を斬らせた。 そこへ矢の雨が襲いかかればたまらない。 「おのれ小僧!」  バルザムは怒り狂った。 とりあえず彼は、上流の堰を支配することにした。 が、当然ドバイルも警戒している。 かなりの数の兵で守っているだろう。 「奇襲部隊十名、志願を募る」  奇襲部隊が混乱を起こしたあとで、数百規模の兵で堰を占領する。 だが、奇襲部隊は決死である。  この奇襲部隊に、一人の若者が志願した。 「オデュセウスと申します」  農民上がりの下級兵士だった。 武術、馬術、度胸共に兵士達の間で話題になっているらしい。 背が高く引き締まった端整な顔立ち、浅黒い肌と黒髪が印象的だった。  オデュセウスをはじめ、計十一人の志願者が集まった。 いずれも精悍で将来有望な面々だった。  早速その夜、彼らは曇天の闇夜に紛れて進発した。 後続の部隊二百もそれに続く。  さすがに暗く、道は難渋した。 が、奇襲隊は互いに励まし、意気を上げながら進んだ。  やがて堰に近付いた。 林の向こうに篝火が焚かれ、警護兵の姿も見える。 意外に警護は手薄で、こちらに気付いた様子もない。 距離はそう遠くない。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加