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奇襲隊は、堰に一気に近付いた。
剣を抜き放ち、警護兵に切りかかる。
オデュセウスも無我夢中で叫び、走った。
警護兵は弱かった。
大した抵抗もなく、我先に逃げ出す有様だった。
人数は数十人程度。
程なくなだれ込んでくるはずの主力なら、壊滅させるのは容易く思われた。
だが、オデュセウスはどこか違和感を感じていた。
その正体はわからない。
奇襲隊の面々も、やがて詰め掛けた本体も、逃げ遅れの掃討に忙しい。
オデュセウスも、必死で逃げる兵を斬った。
堰は占拠された。
奇襲隊の勇気ある動きはその場で称えられた。
その時、突如辺りで火柱が幾つも上がった。
同時に矢が滝の様に降り注いだ。
罠だった。
後にドバイルは語っている。
「人間なら、悪の原因を排除したいだろう。
あの堰が狙われるのは当然だ。
だから、わざと攻めさせて、いたい目にあわせる。
翻弄されたと思わせるんだね。
すると、やる気を削げる。
私ならすぐにもう一戦仕掛けるが、バルザム将軍を含め普通の神経の人には、無理だ。
まあ私の場合、あの戦いの後、堰はがちがちに守っておいたから、もう一戦仕掛けられても、普通に守り切れただろうけど」
ホルツザム兵は、散り散りに逃げた。
が、完全に包囲されていたため、次々と刈り取られた。
オデュセウスは手近な数名を叱咤し、まとめ上げ、先頭をきって闇夜の林に潜む敵陣に切り込んだ。
矢が腿や肩などに数本ささったが、怯まない。
あまりの鬼気迫る気配に、敵が怯む。
彼は数人斬った。
彼に従った者も、それぞれ勇敢に戦った。
途中、一人死んだらしかったが、オデュセウスには振り返る余裕がなかった。
死線を突破したのは、明け方だった。
生き残りは、オデュセウス達数人だけだった。
「生きたが、どうする」
これが素直な思いだった。
他の数百の兵は、燃え盛る闇の中、死んだ。
自分だけ、逃げた。
もう少し仲間を助けられなかったか。
あの場で華やかに死ぬべきではなかったか。
この後の一生涯、卑怯者の謗りを受け続けるのか。
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