奔走

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 オデュセウス達は失意に打ちのめされ、ホルツザム軍本陣に辿りついた。 「どうしたその姿は!」 「堰の奪取は失敗であります」  オデュセウスは叫ぶと、その場に倒れた。  この敗北を期に、ホルツザムはザーグ砦攻めを一旦諦め、撤退を開始した。 が、退却は最も難しいものである。 しかもドバイルは、容赦ない追撃を仕掛けてくる。  オデュセウスは、怪我をした身でありながら、しんがり部隊に入った。 「体は動きます。  敵一人でも道連れにすれば、この命も多少は、母国に貢献できるでしょう」 というのだ。  果たして退却戦が始まった。  周りが弱腰になる中、オデュセウスは仲間を募り、数十人の決死隊を作った。 自軍が坂を越えた辺りで決死隊だけが立ち止まる。 坂の下には、バルダ兵が殺到している。  オデュセウスは吠えた。 「行くぞ!」  雷鳴の様な怒号と共に、決死隊の不揃いな騎馬数十は、濁流の様にバルダの陣になだれ込んだ。  勝利を確信した兵は弱い。 生き残り、勝利を味わいたいから、危険を避けようとする。 そこへオデュセウスの様な死兵が不意に襲えば、簡単に崩れる。 「計算外は、あの若い兵士だった。  自らのぬるさを呪ったよ。  あれさえ対処できていれば、ホルツザムにかなり打撃を与えられた筈だからね。  戦を終わらせられたかも知れない。  バルザム将軍なら、そういう経験もあっただろうから、もう少し周到だったかも知れない」  この戦いの後、ドバイルは述懐した。  この一戦を契機に、バルダはホルツザム領内に侵攻した。 が、ドバイルは、 「侵略には荷担しません」 と言って、ザーグ砦を動かない。 ドバイルがいない前線は、バルザムに負ける。 「血を流したくないなら、さっさと決着を付けるべきではないか」 「血を流さない一番の方法は、戦をしないことです。  このザーグ砦があれば、戦はせずにすみます」
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