予知

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 トルキスタ教皇庁の地下の一室に、来客があった。 バルダ領ザーグ砦の守将ドバイルからの使者だった。 部屋の主ローブは、フォルタという若い使者を丁重に迎えた。 「散らかった部屋で申し訳ないです」  若い使者の顔を見た瞬間、ローブはある程度悟った。 辛い気分になったが、それを押し殺すよう努めた。 「バルダ王国ザーグ砦守備軍総指令ドバイル将軍の執務助手を致しております、フォルタと申します」 「トルキスタ聖教のローブです。  長旅、お疲れでしょう」  こういう時のローブは、普段の軽薄な印象は消え去り、実に紳士的だった。 またローブは、このひょろりと背の高い青年が、誠実で非常に優秀だと感じた。 「粗末で申し訳ない」  ローブは、いかにもという簡易な椅子を若者に勧めた。 フォルタは、近頃見掛ける贅沢な僧侶や騎士達と違うこの質素さが、むしろ爽やかだと感じた。 「ドバイルより、ローブ様に手渡しする様、こちらの手紙を預ってまいりました」  フォルタは、旅行鞄の奥底から、赤い蝋で封じられた封筒を取り出した。 ローブは受け取りながら、 「遺言、か」 と、苦々しく言った。  ローブは封筒をナイフで開け、便箋を取り出した。溜息をつきながら目を通す。 やがて彼の目付きが鋭くなった。 何度か手紙を読み返し、そしてそれをランプのところへ持って行った。 彼は手紙をランプにかざした。すぐに小さく火がつき、瞬く間に手紙は燃え上がった。 「あっ」  フォルタは思わず小さく叫んだ。 ローブは燃える手紙を煖炉に投げ入れた。 しばらく燃えていたが、やがて細い煙と灰になった。 「遺言、確かに賜りました」  煙を見詰めながら、ローブはぽつんと言った。  翌日、フォルタは帰路についた。 ちょうどこの頃ドバイルは死んだが、フォルタがそれを知るのは、さらに七日後だった。
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