予知

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 相変わらずマイクラ・シテアは、ブサナベンの古文書の解読に熱中している。  随分進んだ。 紅い宝玉に始まり、魔物の召喚、死者の復活、先日は魔界の金属も作り出した。 魔物に紅い宝玉を埋め込む術も解読した。  彼が今取り掛かっているのは、死の予知だった。 紅い宝玉をより多く、しかも良質な人間を媒体に作る。 そのための手法だった。  彼が起こしたバザの惨劇からもう十八年になる。 彼は、生きているのが不思議なぐらいに痩せ、肌は紫で、髪は真っ白で半ば抜け落ちていた。  だが彼の周りは、数え切れない程の怨霊が沼の様に渦巻き、魔も溢れ、明らかに以前よりその力は強くなっていた。  彼は最近、古代の知られざる遺跡にいることが多い。 魔界の金属を使った巨大な魔導器の製作をしていて、それを納めるのに丁度良かったのだ。  彼がこの場所を選んだのにはもう一つ理由があって、この場所は、魔の力を扱いやすかった。 彼の知る無数の文献にも詳しくは書かれていない、謎の遺跡だ。 ただ、魔の力場の候補として、わずかな記述があった。 「どうでもいい」 と彼は思っていた。 ただ単純に、適切な空間と魔を扱いやすい環境であること。 他には興味がなかった。  彼が作っていたのは、馬車だった。 戦場で見掛ける物で、戦車とも言われる。 一対の巨大な鉄車輪と、立って乗る御者台がある。 しかしあまりに巨大であるため、並みの人間には制御できないだろう。  戦車を引く馬は、漆黒だった。 まだ骨組がむき出しだが、それだけでも十分わかるぐらい、極めて頑強だった。  またそれは、美しかった。 躍動感があり、大胆な曲線を描いた形状が随所に見られた。 細部の作り込みは繊細で執拗だった。 例えばたてがみは、一本一本が極めて細い鎖でできていた。  この馬車が戦場を疾駆すれば、一体どれだけの兵士が蹂躙されるかわからない。  マイクラ・シテアは、この馬車を作りながら、ブサナベンの古文書を解読している。 「この馬車の魂となるに相応しい英雄が必要だ」  正しくは、英雄の死だった。 英雄が死ぬ前に紅い宝玉を埋め込み、死後その宝玉を回収すれば、後はこの馬車の額に宝玉を取り付ければいい。 問題はどうやって英雄の死を予知するかだった。  だから彼は、必死でブサナベンの古文書を解読していた。 彼は今、死の予知の章を読み進め、その準備をしていた。
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