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最近彼は、ブサナベンが何を目指していたのか、理解した。
ブサナベンは、不死王たらんとしていた。
魔王と結託し、神を排除し、地上を破滅させる。
これはまさに、マイクラ・シテアが目指した理想その物であった。
千年も前に、同じ事を目論み、実現まであと一歩まで迫った人間がいた。
「わしは、何としても実現する」
魂の奥底から熔岩の様に沸き上がる粘りついた憎悪が、あるいは同じ質の恐怖や孤独が、彼を突き動かしていた。
「忌々しいのは、あの魔封じめだ」
脳裏に、巨人の姿が閃く。
鈍く光る巨大な剣がよぎる。
巨人には、彼の魔導が全く通用しない。
魔導という誇りを傷付けられた憎しみは、尋常ではなかった。
「しかしこの馬車なら、あの魔封じも、虫けら同然よ」
彼は巨人の恐怖に歪んだ顔を思い浮かべ、喉の奥で笑った。
喉元の紫の肌はしわだらけで、突出た喉ぼとけがゴロゴロうごめいた。
予知の章の解読は、例によって非常に難航した。
来る日も来る日も、膨大なメモ書きをあさり、何か月も掛けて行なわれた。
過労のためしばしば彼は意識を失い、瀕死になった。
だがなぜか彼は必ず回復した。
やがて彼は、魔の秘法をまた一つ解読した。
彼は、誰がいつどこで死ぬのか、知る事ができるようになった。
「死神か?」
彼は一人、しわがれた甲高い声で、奇妙な高笑いをした。
ただちに彼は、世界の戦場や主要な国の将軍を洗い出しに掛かった。
今最も旬な武将としてまず上がったのは、バルダの将軍ドバイルだった。
しかし、
「知略で戦う者は、戦場を蹂躙する魔馬車の魂にふさわしくない」
と、却下した。
ホルツザムのバルザム、トルキスタ聖騎士団のロド、南方にその名が轟くゴート、東方のイシュマイルやベネン、北方のガイルなど、候補は多数だったが、いずれも魔導師の美意識にそぐわなかった。
だがやがて、一人の候補が挙がった。
「ホルツザム正規軍先鋒隊隊長オデュセウス、か」
昨年末に結成された、ホルツザムの突撃隊だった。
長引くバルダとの戦いにおいて、ホルツザム反撃の要となっている。
その部隊は大陸最強と噂されている。
中でも隊長オデュセウスは、バルダ軍から修羅と恐れられている。
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