予知

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「こやつだ」  魔導師は思わず骨ばかりの手を叩いた。  魔導師はオデュセウスの死期を占った。 すると、二年後の夏とわかった。 「二年か、長いな」  彼は舌打ちした。  無論他にもやる事はある。 ブサナベンの書はあと三章残っているし、完成間近な魔馬車の次に、新たな魔導器も作りたい。 だがそれでも、果てしなく長く感じられた。 「ところで、ドバイルとやらを、何かに使えぬものか」  ふと、そう思う。 やはりなんと言っても、当代きっての名将である。 手に入れたい。 「ドバイルとやらは、いつ死ぬのだ」  占ってみると、もう十日ばかりで死ぬらしい。  マイクラ・シテアは、歯のない口を歪ませて笑った。 「理想的だのぅひゃひゃひゃ」  居場所はわかっている。 ザーグ砦だ。 ドバイルはその守将だ。  マイクラ・シテアはすぐに時空の割れ目を開き、紫にぎらつく空間に姿を消した。  やがて彼は、紫の空間から出て来た。 そこはもう、見知らぬ場所だった。 山を背にそびえる、重厚で歴史のある石造りの巨大な建造物が目の前にある。 背後には川が流れ、雨が降ったのか、水かさが多く濁っている。 「噂に名高い難攻不落のザーグ砦様かぁひゃひゃ」  マイクラ・シテアはふわりと浮かび上がった。 黒い影は滑らかに砦の上まで舞い上がり、城壁を見下ろす位置まで到達した。  城壁の上で警戒に当たっていた兵士達が、黒い影に気付き、騒ぎ始めた。 魔導師はその様子がおかしくて仕方がない。 「虫けらどもが」  彼はわずかに指先を動かした。 すると、数人いた兵士の一人が、突然倒れた。 辺りに強烈な死臭が吹き出し、周りの兵士達が激しく嘔吐した。 倒れた兵士は、骨がむき出しになるほど腐っていた。 その屍体の上に、その兵士の亡霊がたたずんでいる。
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