予知

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『あれ、これ、俺なのか?』  亡霊は不思議そうな顔で、自分の亡骸や周りで汚物にまみれた兵士達を眺めている。 『死んだ?』 「ああ、お前の体は死んだよ。  汚いただの腐った死体さ。  しかしお前の霊は、永遠にここに縛ってみた。  退屈じゃろうのう、不気味がられるじゃろうのぅひひひ」  兵士の霊は、酷く動揺した。 『いやだ、そんな』 「お前が嫌かどうかは取るに足らんのだ。  大切なのは、わしが楽しいかどうかなのだ、腐れウジ虫が!」  魔導師は突如、イバラの様に苛立って、霊を激しく罵倒した。 彼を取巻く悪霊達が炎の渦になる。 「貴様は霊になっても腐ってしまえ!」  魔導師がまた何か呟く。 すると霊が、みるみる腐り、痛みと恐怖にもがき始める。 「馬鹿め、馬鹿が、馬鹿め!」  彼自身、何に怒りを感じているのかわからない。 ただ彼の魂の底から沸き上がる怒りを、脆弱な人間達にぶつけていた。  やがて彼は急に退屈になった。 「さて、元々の用事を終わらせに行くとしようか。  その前に、騒ぎになると面倒だ」  彼の赤い眼がぎらりと光る。 すると周りにいた数人の兵士は、蝋人形になった。 指を一つ鳴らすと、それぞれの頭の先に小さな灯が点る。 「蝋燭の身になって己の罪を悔いながら死ね」  蝋人形の兵士達はまだ生きていた。 生きながら、自らが徐々に燃え尽きるのだ。 全員が絶望の顔になった。  黒い影は、石造りの城壁の中に染み込む様に消えた。  彼は砦内部の廻廊に出た。 近くに兵士が二人巡回しており、彼らは突然現れた異様な気配に戦慄した。 「何者だ!」 「ドバイル将軍に野暮用の客だよ」
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