予知

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 魔導師は兵士達にぞろりと近付く。 兵士はがたがた震え、あとずさる。 「ドバイル将軍はどこかね。  いやなに、喋らなくていい。  直接君達の脳に聞く」  影が触手を伸し、すくみ上がり失禁している兵士にまとわりつく。 触手は耳や鼻から這い入り、やがて脳に達する。 兵士達は泡を吹き、痙攣し始めた。 「ふむ、ふむ、なるほど」  用が済むと、触手はするりと引っ込んだ。 兵士達はその場に崩れた。 淫猥な笑みを浮かべて、すでに死んでいた。  また影は壁の中に染み込んで消えた。  再び姿を表すと、そこは砦の中ほど、中庭に面する殺風景な執務室だった。 調度類はあまりなく、わずかに粗末なベッドと執務机、棚がいくつかだけだった。  乾いた小さな咳が、執務机の方から聞こえる。 「誰です?」  掠れた苦しげな声が、魔導師に話し掛けた。 「わしはマイクラ・シテアという。  ドバイル将軍、あなたにいい話を持って来た」  魔導師は内心驚いていた。 彼は自分がどれほど不吉で恐ろしいか、よく知っていた。 だが目の前にいる痩せた男は、全く恐れた様子がない。 「怖くないのか」  思わずそう口走り、魔導師は自らわずかに動揺した。 「禍々しいとは思うが、私はどうせもうすぐ死ぬ」  耳障りな呼吸音混じりで、ドバイルは言った。 「そんな事より、用件を。  引き継ぎ作業ができてなくてね、せっかく来てもらったのに申し訳ないが、あまり時間がないんです」 「妙な男だ」  魔導師は鼻で笑った。 「もっと生きたくはないのかね」 「諦めました」
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