予知

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「魂を保存し、再び転生できるとしたらどうかのぅひひひ」  その言葉を聞くと、ドバイルは一瞬ぴたりと動きを止めた。 真っ白な長い前髪の間から、切れ長の眼を魔導師に向け、しばらく何か考えていた。 「それは、とても興味深い」  苦しそうにあえぎつつ、ドバイルは執務机の上に少し身を乗り出した。  魔導師は歯のない紫の口を開き、にたりと会心の笑みを浮かべた。 「これじゃ」  魔導師は懐から、熔岩の様にぎらぎらとうねり輝く、魔を凝縮したように不吉な紅い宝玉を取り出した。 「ほう、見るからに凄まじいね」 「美しいじゃろう。  これは、魂を採取し、何かに埋め込めば、魂を移し換えることができるのじゃ。  例えば剣に埋め込めば、剣が意思を持って動き出すのじゃ」  魔導師は少し息を吸い込む。 「例えば今、わしの魔力を増幅するための魔導器を作ろうと考えておる。  古式ゆかしく杖にしようかと思うてな。  その杖に、お前の魂を埋め込むのもいいじゃろう」  魔導師は黒いボロボロのフードの奥で、恍惚の笑みを浮かべた。 「それはいい」  ドバイルは強い興味を惹かれた様子だった。 「私は、どうすればいい?」  そう尋ねるドバイルに、魔導師は猫撫で声で語りかけた。 「わしに任せるがよい。  多少痛みはあるが、すぐ気を失う。  あとは死を待つだけじゃ」 「残った仕事は、もう少しできるかな」  それを聞いて、魔導師は喉の奥で笑った。 「できるとも。  死ぬまではのう」 「それを聞いて安心した」  ドバイルは椅子にゆったりともたれ掛かった。 酷く苦しげに、肩で息をしていた。 呼吸に雑音が強い。 「眼を閉じているから、やってください」  彼はそう呟いた。
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