予知

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 魔導師の手から紅い宝玉がふわりと離れ、ドバイルの心臓めがけてゆっくり進む。 やがて到達すると、肉の焼ける臭いが立った。 ドバイルは苦痛に顔を歪ませたが、ほとんど声すら発せずに耐えていた。 やがて彼は、意識を失った。 「それではごきげんよう、ドバイル将軍。  また十日後お会いしましょうぅひゃひゃ」  高笑いを残して、魔導師は時空の割れ目を開き、その中に消えた。  ドバイルが意識を戻したのは、その夜遅くだった。 先日来、呼ぶまで誰の入室も拒んでいたため、彼が机に突っ伏していたのは、発見されなかった。  彼は便箋を取り出して、手紙を書き始めた。 トルキスタ教皇庁のローブに宛てたものだった。 手が震えたので、随分苛立った。 やがて二枚の手紙を書き終えると、それを封筒に入れ、赤い蝋で封印するし、助手を呼んだ。 隣室で仮眠していた助手の一人が扉を開けてやってきた。 二十五前後の背の高い青年だった。 「フォルタ君、この手紙をトルキスタ教皇庁のローブ殿へ、届けてほしい。  君自身が、直接手渡しでだ。  私からの公使として行くんだ。  手続きはわかるね」  この助手は非常に優秀で、ドバイルは信頼していた。 助手は封筒を受け取った。 「君がいない間に、必要な事はマルタ君とラッセル殿にある程度伝えておく。  すぐ出発してくれ」  そこでドバイルは、わずかにためらった。 が、顔を上げた。 「世話になった」  若い助手は息を呑んだ。 「何をおっしゃいます」  助手は言葉を続けようと眼をさまよわせた。 が、小さく鼻をすすり、 「私こそ」 と嗚咽混じりに何とか返し、一礼すると出発の準備に取り掛かった。  ドバイルはそれから六日後の夜、大量の喀血をし、倒れた。  翌正午頃目を覚まし、病床で書類を書いていたが、再び喀血、昏睡となる。  二日後再び意識を取り戻すが、もはや起き上がれず、砦の守備軍幹部達数名と助手が集まる。 「二年もすればホルツザムはこの砦を陥とすだろう。  その際は無駄に抵抗せず、陥落後直ちに講和を進められる様、準備をすること」  さらに一言、 「あの時」 と言ったが、ただ涙を流し、再び意識をなくした。  翌朝、彼は息を引き取った。
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