ザーグ砦攻防

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 ドバイルの死は、バルダ軍に大きな衝撃をもらたし、同時にホルツザム軍には、活気をもたらした。 「我がホルツザム軍の精鋭諸君!」  齢七十になるホルツザムの英雄バルザムは、衰えない威勢をほとばしらせ、一万近い兵士を前に、演説していた。  ホルツザム軍は、ザーグ砦に忍ばせてあった間者からの報告を受けて、直ちに反撃を開始した。 「ザーグ砦にドバイルがいる」 という重圧は、それだけでホルツザム軍の士気を著しく削いでいたが、今や解放され、統制が行き渡る様になった。 結果、元々国力で優位なホルツザムは、じわじわと戦線を押し戻していた。  またこの反撃戦では、先鋒突撃隊の活躍が目立った。 戦況が苦しい時期でも突撃隊は成果を上げ、恐れられたが、攻勢に立った最近の活躍は、まさに鬼神のごとくであった。  隊長はオデュセウスである。 かつてのザーグ砦攻防戦で、敵と炎に囲まれた中から脱出した話は、今や語り草である。 黒ずくめの出立ちは、敵にも味方にも、際立った存在感を示していた。  彼が崇拝して止まない英雄バルザムの演説は、広い原野でも朗々と響いている。  ホルツザム軍は今、ザーグ砦から西に四日の場所、フォロスという小さな街の郊外の草原に陣を張っていた。 古い時代には小さな城があり、その遺跡がわずかに残っている。 先週この地を奪還したばかりで、総勢一万足らずの遠征軍は、かなり意気が上がっている。  バルザムの演説は、さらに兵士たちの士気を高揚させた。 「諸君らは強い。  しかも我らには、頼りになる突撃隊がいる。  策士ドバイルは死んだ今、我らを止められる軍はどこにも」  演説の途中で、ふとバルザムは言葉を止めた。 一瞬苦い顔になる。 が、それもすぐ振り払い、続けた。 「どこにもいない!」  喝采がわき起こる。 バルザムは右手を上げてそれに応えた。  演説を終えたバルザムは自分の天幕に戻った。 ひどく不機嫌だった。 小姓がやきもきしながら身の回りの世話をしている。 「なぜこんな時に、奴なんだ」  彼の脳裏には、一人の男が揺らめいていた。  真っ白いたてがみを靡かせ、燃え上がる炎を錯覚させる気をまとい、一振りで十人を斬る巨大な剣を、まるで枯れ枝のように振り回す、褐色の巨人。
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