ザーグ砦攻防

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 三度戦ったが、ことごとく背走した。 相手は平凡な軍勢で、平凡な兵法。 数も優位。 だがあの巨人一人がいるだけで、負けたのだ。 ドバイルのような策もない。 ただ力で負けた。 兵が怯えて逃げ、自らも震えが止まらなかった。  それ以来、巨人の噂を聞けば、すべて避けた。 勝つためとは言え卑怯だと、自覚していた。 誇り高き軍人である彼には、それはこの上ない屈辱であった。 避けて勝つ度に、惨めになった。  オデュセウスは強い。 見事な活躍であり、期待できる。 だが、平凡に思える。 あの巨人は、あまりに別次元だった。  翌日、夏の風が心地よく街道を横切る午前、ホルツザム軍は東へ行軍を再開した。 オデュセウスの先鋒隊五十騎が先頭で、他の部隊がそれに続く。 バルザムの親衛隊は中程である。  その親衛隊の中に、およそ兵士とは思えないほど貧弱な男が混じっていた。  名を、ファリアヌスと言った。  子爵位を持つ貴族である。 本来ならこんな戦場にいるはずのない男だ。 しかし、貴族にとっても勇者というのは、名声を高めるのには便利だ。 若い貴族の子息たちは、大抵一度は軍に入る。 もっぱらバルザムの親衛隊だ。 なぜならホルツザム軍で一番安全だからである。 ここ十年以上、親衛隊が直接戦闘に参加したことはない。 そして軍を適当に退き、 「軍で活躍した勇者である」 と紹介される。 これが貴族の社交界の流行りだった。  ファリアヌスは、もうそろそろ軍を退くべき年齢である。 が、彼はまだしがみついていた。  彼には、社交界にいい記憶がない。 軍に入るときでさえ、憧れていた令嬢から、 「あなたが軍に入ったって、誰も勇者だなんて思わないわ。  こそこそ隠れている姿が、誰にだって想像つくもの」 と、軽やかに笑われた。  それほどに彼は、人気がなかった。
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