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 少将はそう言って、出口の方へ振り返った。  そこには忽然と、紫色の顔をした黒いぼろをまとった老人が立っていた。  少将達は、即座に理解した。 自分たちは死ぬのだと。 恐怖はもはや意味をなさず、ただ吸い込まれていくのを彼らは何となく感じていた。  事実、老人が二人の間をすり抜けると、二人はずるずると腐って崩れていき、その肉塊は老人の黒いぼろに霧のように吸い込まれていった。 鎧や服、剣だけが残り、がらがらと音を立てて転がった。 まるでそこには、最初から人などいなかったように、気配すら吸い込んでしまった。  老人は何かをぶつぶつ言いながら、骨と皮だけにやせて皺だらけの手をファリアヌスの遺骸に向けた。 ざわざわとファリアヌスの遺骸が腐り始め、そして老人に吸い込まれる。 そして心臓の近くに腐食が達したとき、ぎらりと光る赤い宝玉が姿を見せた。  老人はその宝玉を指先でつまみ、懐に大切そうにしまう。  老人のすぐ脇の空間に、ぎらぎらと不吉に輝く紫の裂け目が現れ、老人はそこへ吸い込まれた。  紫の空間は、即座に消えてしまった。
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