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「まさかわしの魔馬車が、あの憎々しい魔封じめと手を組むことになろうとは」  蝋燭二本だけの暗く狭い、実に雑然とした窓のない部屋に、マイクラ・シテアはいた。 彼は机の傍らに立て掛けてある杖に語りかけていた。 「魔封じとは何者ですか」 「わしの邪魔ばかりする、筋肉馬鹿だ。  シ・ルシオンとかいうらしい」 「それなら私も知っています。  私より上の世代の軍人なら、誰でもその名は知っています」  杖がそう応えると、マイクラ・シテアは喉の奥をガラガラいわせた。 苛々している。 「ドバイルよ、貴様は大陸随一とも言われた調略家であろう。  あの忌々しい連中を始末せよ」  杖には、ザーグ砦の守将ドバイルの魂が宿っていた。 ぎらつく紅い宝玉が埋め込んである。 杖はしばらく考え、やがて応えた。 「如何なる英雄であろうとも、いや、優れた人間であればその分、嫉妬もされましょうし、恨まれもします。  今のような戦時であれば尚更です。  戦時の英雄とは、より多くの人を殺す者に他なりません」 「ほう」  引きちぎれそうなしわがれ声で相槌を打ち、魔導師は興味を示した。 「で、それでどうなる」 「彼らを恨んでいる者たちを探しましょう。  その死を待ち、私と同じく宝玉にて魂を採取し、そして、強力ながら愚かな魔物に埋め込みます」 「おもしろい」  マイクラ・シテアは歯のない紫色の口を引き裂いて、にたりと笑った。 喉の奥で苦しげな呼吸音がする。 「早速色々調べてみよう」  魔導師は杖をひっつかむ。 彼の側に紫色に揺らめく裂け目が現れ、彼はその中に吸い込まれた。
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