2/13
前へ
/13ページ
次へ
「まさかわしの魔馬車が、あの憎々しい魔封じめと手を組むことになろうとは」  蝋燭二本だけの暗く狭い、実に雑然とした窓のない部屋に、マイクラ・シテアはいた。 彼は机の傍らに立て掛けてある杖に語りかけていた。 「魔封じとは何者ですか」 「わしの邪魔ばかりする、筋肉馬鹿だ。  シ・ルシオンとかいうらしい」 「それなら私も知っています。  私より上の世代の軍人なら、誰でもその名は知っています」  杖がそう応えると、マイクラ・シテアは喉の奥をガラガラいわせた。 苛々している。 「ドバイルよ、貴様は大陸随一とも言われた調略家であろう。  あの忌々しい連中を始末せよ」  杖には、ザーグ砦の守将ドバイルの魂が宿っていた。 ぎらつく紅い宝玉が埋め込んである。 杖はしばらく考え、やがて応えた。 「如何なる英雄であろうとも、いや、優れた人間であればその分、嫉妬もされましょうし、恨まれもします。  今のような戦時であれば尚更です。  戦時の英雄とは、より多くの人を殺す者に他なりません」 「ほう」  引きちぎれそうなしわがれ声で相槌を打ち、魔導師は興味を示した。 「で、それでどうなる」 「彼らを恨んでいる者たちを探しましょう。  その死を待ち、私と同じく宝玉にて魂を採取し、そして、強力ながら愚かな魔物に埋め込みます」 「おもしろい」  マイクラ・シテアは歯のない紫色の口を引き裂いて、にたりと笑った。 喉の奥で苦しげな呼吸音がする。 「早速色々調べてみよう」  魔導師は杖をひっつかむ。 彼の側に紫色に揺らめく裂け目が現れ、彼はその中に吸い込まれた。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加