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「貴様は悔しかろう。  醜く生まれ、何の才能もなく、勇気のたぐいとも縁がない。  女にも勿論縁がない。  周りの連中は貴様をくず同然に蔑む。  由緒正しきルーベン家の子弟であるのにだ。  まぁ見事なぐらい何の実力も魅力もないんだから当然さ。  それに引き替えオデュセウスはどうだ。  半農半兵の貧民の出でありながら、凛々しく美しく、戦の才能に恵まれ、成果を上げ、常に喝采を浴び、尊敬され、女どもにも人気がある。  先の戦で死してなお、生きている貴様は奴には勝てぬ。  軍に入隊してから貴様は常に奴に嫉妬し、憎んだ。  そしておまけに、その嫉妬のあまり貴様は無抵抗な女を殺した。  しかもそれは、将来の王太子妃とも囁かれるバンスファルト伯爵令嬢だ。  死刑、死刑、死刑、とぉっても恥ずかしい人生の最後は死刑死刑死刑ぃひひひひゃひゃ」 「やぁやぁやめやめ、おぇぇぇ」  ファリアヌスは汚物を吐き出した。 腹の辺りが汚物にまみれる。  しばらく黒い闇は、言葉を途切れさせた。 そして、うつろなファリアヌスの目の前に、禍々しく渦巻く紅い宝玉を出現させた。 「だが死刑決定の子爵殿、もしオデュセウスがどこかで生きていて、そして奴に復讐できる力を得られるとすればどうかね」  気絶しそうなのにやたらはっきりした意識の中心に、毒沼のような声が甘ったるい誘いをかける。 「この素晴らしい宝玉は、これから死ぬ人間の魂を保存し、そして別の器に埋め込めるのじゃ。  オデュセウスは、わしの作った究極の芸術品である、地獄の魔馬車にその魂を埋め込んだ。  貴様はさしずめ、おぞましく、そして計り知れぬほど残虐な魔獣にでもしてやろう。  そうすればあの裏切り者のオデュセウスを八つ裂きにして、積年の恨みを見事晴らせるじゃろうて」 「ききき、貴様に命じる。  すぐにそれを施せ」  そうすると、闇の化け物は突如不機嫌になった。 「わしに命じるとは、どういう思い上がりじゃ。  今から貴様をウジ虫の大群に喰わせてやろうか」  ファリアヌスは恐怖のあまり呼吸困難になり、歯茎や鼻から血を流した。 「やぁやめてやめて」
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