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「退けぃ!」
バルザムは迷わず命じた。
中の軍勢を失うのは痛い。
しかし、救出は恐らく非常に難しく、単に犠牲が増えるだけだろう。
「魔物どもなど」
どうでもいい、というのが彼の本音だった。
城に取り残された魔物たちは、バルザムが前線を離脱して程なく、すりつぶされるように全滅した。
だがバルザムは、数が減った、という以上の何も、別段感じなかった。
一旦彼は、もといた少し高い場所へ魔物の軍勢を退いた。
そこで体制を立て直す。
城からの追撃はなかったので、数こそ減ったものの、十分な陣形を整えた。
もうそろそろ午後、早くも日が沈みつつある。
午前中ちらほらと舞っていた雪は止み、少し雲が切れてくる。
冬場いつも曇天のこの地方では、最近の晴れ模様の多さは近年まれに見るものだった。
やがて日が落ちる。
この頃になると空は見事に晴れ、東の山に満月が浮かんだ。
ごく淡い黄色の光が雪原を照らし、景色は青白く、明るかった。
この頃、ボルスはようやくガイルに対面できた。
ガイルは板でできた急ごしらえの輿にのり、第三城壁の陸屋根に現れた。
全身包帯だらけで、顔も隠れている。
しかしわずかに覗く鋭い眼光は、決して見紛うことなく、ガイルのそれであった。
ボルスは、木の台にとりあえず置かれたガイルの輿に駆け寄った。
「よくぞご無事で!」
見ればガイルは丸太に胸や腹をくくりつけて体を支えていた。
そうでもしなければ、起きていることさえ困難なのだろう。
ボルスは戦場であり、多くの部下も周りに多いゆえに、なるべく平静を保とうとしたが、それでも言葉につまり、ギョロ目に涙が浮かんだ。
「ボルス殿、迷惑を掛けました。
この通り、生きています。
そんなことより」
酷い声だった。
目元を見れば、どうやら熱もある様だ。
あの吹雪をくぐり抜けたのだから、無理もなかった。
「魔物どもの将は、ホルツザムのバルザム将軍らしい」
ボルスはすぐには意味が理解できなかった。
が、やがてそれを理解すると、
「まさか」
と、思わず言った。
しかしボルスにはわかっていた。
ガイルは今まで、彼に対し虚言を言ったことがない。
恐らくそれは、かなりの確度で本当であろう。
「どうも、トルキスタの若僧が言った法螺話が、現実味を帯びてきているのです。
現に私は吹雪の中で、バザの惨劇の犯人と出逢いました」
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