月光

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 ボルスは先の会議には参加しなかったが、その顛末はガイルから詳しく聞いている。 のろしのこと、シ・ルシオンのこと、そして実質的主催者である、胡散臭い軽薄そうな青年のこと。 南方の大国ベイシュラのゴート将軍がどういうわけか丸め込まれたので、ガイルは酷く警戒していた。 「今回の魔物どもの襲撃が、あの若僧の意図によるものかどうかは、現時点ではわかりません。  しかし、私自身が現実に、あの若僧よりも明らかに、遥かに、極めて危険な者に遭遇しました。  そしてそれは、あの会合で、あの若僧が強く示唆していた事です」  ガイルは胸の辺りを包帯で巻かれた手で押さえ、苦しそうにした。 呼吸に雑音が混ざり、酷く具合が悪そうだった。 「ガイル殿、ひとまず今日は、お休みください」  いたたまれない様子でボルスはそう促した。 ガイルは返事もろくにできず、何度かうなずくのがやっとだった。 ボルスは輿の担ぎ手に指示して、ガイルを将校専用の医務室へ運ばせた。  ガイルは心配だが、しかしボルスには憂慮することが他にある。 再び魔物の軍勢が攻勢を仕掛けてきた。 兵士たちは二日間の疲労が蓄積し、限界に近い。 敵将はここぞとばかりに総力戦を選んだらしい。 「中央大陸の英雄将軍バルザム、か」  無論知っている。 ボルスがまだ少年だった頃、ホルツザムの領土拡大の立役者として活躍していた。 緻密ではないが、豪胆かつ狡猾、期を見るに敏。 士気を高め、死を恐れぬ「死兵」の大軍を率い、隣国を侵略する。 「勝てるのか」  しかしガイルがあの様子では、自分しか頼れない。 「みな、今宵こそが正念場だ!  守ろうぞ、大切な家族を、友人を、軍人としての誇りにかけて!」  冬の月は南に高く、相変わらず円く輝いている。 雪原は青白く、そしてその上を、化け物の大軍が侵食している。  城壁に魔物たちが殺到する。 陸も空も、奇怪で邪悪な存在がうごめき、兵士たちは果敢に戦う。 砲撃が、弩弓が、唸る。 魔獣が吠え、兵士たちを食い荒らす。  しかしバルザムが再び最前線に進出し、城壁の破壊を強力に指揮すると、難攻不落の城壁が揺らぎ、ひび割れ、剥がれ始める。 魔物の中でも際立った豪腕が壁に何度も何度もぶち当たると、人間の造作は、所詮脆かった。
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