月光

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「否! 否や、否!」  バルザムは吠えた。 「俺は既に人を越えた、越えたのだ!  人にあらざる貴様を殺すために、人を越えたのだ!」  バルザムは巨大な戦斧を両手で振り上げ、地面に叩きつけた。 周りの魔物たちがその迫力に縮み上がるほどだった。 「来い、シ・ルシオン!」  バルザムはわめいた。  瓦礫と魔物の死骸が溢れる王道の果てで、バルザムの叫びに応えるように漆黒の馬車がいななき、それにまたがる巨人が再び槍を構えた。  突如、馬車との距離が詰まる。 馬車はバルザムの想像を遥かに越える速さだった。 バルザムはまともに馬車に体当たりされ、周りで逃げ遅れた魔物を巻き添えにして、城壁に叩きつけられた。  痛みはない。 しかし、右足の大腿部より下が破壊されていた。 もはや歩けない。  バルザムは堀に落ち、水没した。  その時、彼の思念に直接声が響いた。 「口先だけの英雄将軍かぁひゃひゃひひ」 あまりに凶悪なのでそれが誰かすぐにわかる。 「魔導師か」  バルザムは苦々しく呟く。 反論もできない。 強力な魔物の軍勢を率いてなお、あと一歩のところで負けた。 屈辱感に押し潰されそうだった。 「この杖殿に感謝することじゃ。  お前はまだ多少使えるから、安易に殺すな、じゃとな。  わしは別にどちらでもいいがなぁひゃひゃ。  しかしかつての部下に突き飛ばされた気分は、さぞかし爽快であったろうねぇえひひひひゃひゃ」  バルザムは魔導師の言うことを、あえて聞き流していた。 そうでなければ、これ程の侮辱には耐えられなかった。  だが、バルザムは魔導師の言葉の端に、引っ掛かりを感じた。 「部下だと?」 「そうとも。  あの馬車は、お前と違って最高の出来映えの逸品。  それにふさわしいのは、麗しの突撃隊長オデュセウスだよぉひょひょひょ」  バルザムは疑うでもなく、ただひたすら衝撃に心を委ねるしかなかった。
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