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ルビアの首都ボルネットは、北限の都市である。
人口はおよそ百万人。
北の大国ルビア最大の都市である。
主要産業は鉄鋼と小麦。
特に鉄鋼は、豊富な生産量を誇る鉄鉱石の鉱山が点在し、ルビア軍の強力な軍事力を支えている。
町の中央をルース川が流れ、そのほとりにボルネット城がそびえる。
ボルネット城は、北、東、西をルース川本流と支流に守られ、南は三重の城壁と、それぞれの前の堀に守られている。
城の少し南へ離れたところに小高い丘があり、そこから城を眺めると、独特な地勢に佇む姿が美しい。
南側から攻めるのを基本とするが、この国には強力な火砲の技術があり、攻め手を阻む。
世界屈指の難攻不落として、バルダのザーグ砦と並ぶ名城である。
守将はボルス。
ルビア軍総帥ガイルから絶大な信頼を受ける、城塞防衛の達人である。
「空だ」
ずんぐりした禿頭の小男である。
ガイルより少し上の四十九歳。
愛くるしい丸く大きな目が面白い。
口髭を蓄えていて、威厳がありそうでなさそうな、愛嬌のある男だった。
「あのー、その、あれだよほら、弓矢と火砲を、がっとこう、上に向けて打ちたいんだが、どうかね、駄目かね」
軍の実質第二の権限を持つ男は、いつもこんな調子で、どこかおどおどしている。
そのくせ戦闘が始まると、まさに守護神の働きをする。
若い頃はいつも、戦場にいるときのように豪放な男だったらしいが、出世路線から外れて長く辺境守備にいる間に、どこか自分の能力や考えを疑う癖がついてしまったのだ。
また彼は出世とか派閥とか、あるいは配置転換の要請など、そういう「政治」ができない。
国境防衛で卓越した実績を挙げながら、華やかなキャリアとは無縁だった。
ようやく辺境から中央へ帰ってこられたのは五年前、ガイルが軍総帥に就任してからのことである。
「そうですね、落ちてくる矢に備えて、盾を持たせれば問題ないかと。
小型の物でよろしいでしょう。
強弩に油袋をつなげて敵を焼き落とすのも良いかもしれません」
そばにいた守備隊の大隊長がそう返すと、ボルスは目をぎょろりとむいた。
魔人の形相だ。
大隊長は罵倒されるのかと縮み上がる。
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