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黎明、魔物の軍勢は予定よりやや早く、ボルネット城近傍に到着した。
すぐに周囲を確認し、結果城攻めの拠点を、城の南にある小高い丘陵に定めた。
「ここしかあるまい。他から攻める奇策は、あまり価値もなかろう。
力押しで十分だ」
バルザムは、主力を最前衛に配し、空から攻める部隊を中央、衛は前衛の交代として待機させる陣容にした。
昼夜を隔てず断続的に攻め、より消耗を強いるつもりだ。
夜が明け始め、粉雪がしんしんと降る。
風はなく、空は暗い。
丘の上から眺めるボルネット城は霞んでいる。
「ザーグ砦でさえ落ちるのだ。
この城も落とせる」
バルザムは巨大な床几から身を起こし、魔物の群れの最前列で、血錆の残る戦斧を高々と掲げた。
「者共、行くぞ!」
黒々とした魔物の軍勢が、丘をマグマのように下り、あるいは明るくなった空に散らばる。
それはまさに魔界の侵略そのものだった。
魔物の群れはそれ自体ひとつの生き物のようにうごめき、ルビアの雪原をその触手で汚した。
その様子を城の展望台から遥かに見ながら、ボルスは鼻息を荒々しく鳴らし、鬼神のような形相でいた。
「前面防衛に当たる全部隊、砲撃用意!
上空防衛に当たる全部隊、大弩用意!」
ボルスの指令は、銅鑼と太鼓で速やかに城中に伝えられる。
城壁には火砲がずらりと並び、点火を待つ。
城のあらゆる陸屋根には、大型の弩弓を揃えた部隊が、矢の装填を終える。
「俺は、地獄行きか」
ボルスは思わず呟く。
火砲の射程は、城下の中心街をわずかに越える程度である。
つまり、もっとも激しい砲撃は、町に向けて行われる。
そこにはまだ、動けずに残された人々がいる。
魔物に喰われるのか、砲撃で焼かれるのか。
「国の未来のために死ね、殺せ、か」
ボルスは両拳を握りしめ、やがて血が流れ出た。
だがそのギョロりとした眼光は、殺到する魔物の軍勢からいささかも逸れない。
黒々とした魔物の軍勢が、純白の雪原を侵食し、粉雪の舞う朝の空を侵食する。
射程に入る。
「撃てぃ!」
百を越える砲台から、一斉に砲撃が始まる。
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