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「やりおる」
鎧人形のバルザムは、まだ市街に入らず、少し見晴らしのよい場所から戦況を見ている。
「ルビア軍、侮れぬ。
が、いきがっていられるのは精々明日までよ」
バルザムは考えを少し改めている。
ルビアにはガイルしかいないと践んでいたが、なかなかにボルネット城の守りは整然かつ苛烈だ。
守将はどうやら業師ではないが、守備兵数万を見事にまとめ、今のところバルザム率いる魔物の軍勢を退けている。
なによりあの優れた火砲や弩弓、そしてそれを数多く準備してある周到さは、非常な脅威である。
だが、人は疲弊する。
休みなく攻め立てられると、心身ともにすぐ限界がやってくる。
「化け者共はその点、強い」
バルザムが感じるに、魔物たちは人間より遥かにスタミナがある。
人を殺し、喰らうのにも満足げだ。
あまり死を恐れた様子もない。
「美しくはないが、強い」
バルザムはふと、精悍な若い突撃隊長を思い出す。
「奴も強かった。
それに、人として美しかった」
バルザムは少し苦い気分になる。
「俺は、汚れていた。
だから生き残れた」
バルザムの視線の先で、いよいよ地上の魔物による攻城戦が始まった。
ボルネット城の第一城壁の足元は、油を使っているのだろう、猛火が上がっている。
なかなか簡単に攻められていない様だ。
だがバルザムは焦っていない。
最初から一気に攻め落とすつもりはない。
波のように絶え間なく攻め続けることで、城の兵を疲弊させ、時が来れば一気に攻める。
「空の第二集団は、第一城壁へ攻め込め。
陸の第二集団も城へ向かえ」
空の部隊は、劣勢になっていた第一城壁へ上から殺到する。
すぐに魔物たちは勢いを盛り返し、下火になっていた戦闘が再び激しくなる。
午後になり、早い黄昏になり、夜になる。
ボルスは既に、魔物の指揮官の意図を理解していた。
「嫌らしい攻めかただ」
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