月光

9/14
前へ
/14ページ
次へ
 バルザムは少し苛立ち、巨大な戦斧を大きく凪いだ。 「いよいよ出張るか」  バルザムは、わざと最前線に参加していなかった。 魔物たちは、個々は強いが、気ままでまとまりがない。 バルザムが前線にいない状態では、言わば二軍である。 そこへバルザムが参入すれば、意気は上がり、より強い軍となろう。 それは、彼がよく使う二段攻撃の形に近いものだった。  バルザムは手勢二十ほどを率い、なだらかな雪の高台を下り始めた。 巨体が悠々と進み、やがて城壁前の主戦場へ殴り込む。 弱りかけていた魔物たちはたちどころに意気を吹き替えし、城門や城壁に激しい攻撃を浴びせた。 空からも一層の攻撃が降り注ぎ、再び魔物たちが優勢となった。  ボルスはその様子を、第三城壁から見下ろしている。 「頃合いか」  彼は苦い顔でそう呟く。 そして伝令に告げた。 「第一城壁から撤収だ」  まだ決定的な危機ではない。 しかしボルスは撤収を命じた。 伝令が速やかに城壁の尖塔に向かい、やがて打楽器がやかましく鳴らされ、黄色の大きな旗が振られた。  第一城壁の上にいた部隊は、即座に城壁の中へ階段で降り始める。 非常に迅速だった。 またこれらの部隊がほぼいなくなると、城壁内の部隊も一気に第二城壁へと撤収をした。  見事である。 が、第一城壁は無防備となる。  魔物たちは一気呵成に城門を攻めた。 程なく城門は打ち破られ、百ほどの魔物が第一城壁の内部になだれ込んだ。  バルザムはどこかに違和感を感じた。 「何だ?」  バルザムは、魔物たちが破壊された門から次々に入っていくのを見ながら、自らは足を止めた。  およそ百が入った頃、それは現実となる。  破壊された門の所に、見るからに頑丈な鉄柵が上から落ちてきて、再び塞いだのだ。  バルザムは間一髪柵の外にいたが、魔物たちでもそう簡単に策を破れそうにない。  そしてそこへ、第二城壁からの砲撃が始まる。 それだけでなく、先ほど一旦撤退したはずの第一城壁の部隊も再び現れ、取り残された魔物たちに油樽を投げ、火攻めを始めた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加