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いよいよ終わりが近づいたころ。
「恐らくあなたがこの本を読んでいる頃、私は死んで、骨になっているか、腐って無くなっているか、あるいはミイラにでもなっていることだろう。
あいにくこの封印は、なにがしかの生け贄を必要とする。
神の力さえ防ぐのだ、それは致し方ない。
そして生け贄には、やはり人に言えない内容だけに、私がならざるを得ない。
正直、死ぬのは怖い。
もう四十五歳にもなり、自分なりになすべきことをしてきたつもりだ。
ある程度の結果も出ただろう。
だがそれでも、怖いものは怖い。
なぜこんな所で、一人で死んでいくのだろう。
そう思うとやりきれない。
仕事としてあるいは人として、そうせざるを得ないからそうしているだけであって、できることなら女をはべらせて酒でも飲んでいたい。
それに、重圧だ。
背負うものが、巨大すぎる。
この書を読むあなたにも、似たような重圧を与えることになるだろう。
心残りは色々あるが、心苦しいのはそれだ」
このページはそれまでとは違い、実に人間味のある、平凡な人間としてのソルドがいた。
およそ大賢者と称えられる人とは思えず、どちらかというと自分と似たような、少し斜に構えて拗ねたところのある、しかしそれ故に人の感情にも鋭い人物に感じられた。
ローブは少しだけ気が楽になった。
「リーファが俺とあんたは似てるって言ってたよ。
軽薄だってさ」
物言わぬミイラに、彼は静かに声をかけた。
大賢者とは言えミイラはミイラ、なにも答えない。
だが、そうすることで、長い時を越えて、一人の友人と話しているような心地だった。
「さて、どうやったら帰れるのかねぇ」
ローブは考えた。
そもそもここはどこなのか。
夢中で封印を解き、大賢者の墓所にたどり着いたが、帰ることまでは考えていなかった。
だが彼は言った。
「どうにかなるさ」
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