ソルドの墓

10/11
前へ
/11ページ
次へ
 いよいよ終わりが近づいたころ。 「恐らくあなたがこの本を読んでいる頃、私は死んで、骨になっているか、腐って無くなっているか、あるいはミイラにでもなっていることだろう。  あいにくこの封印は、なにがしかの生け贄を必要とする。  神の力さえ防ぐのだ、それは致し方ない。  そして生け贄には、やはり人に言えない内容だけに、私がならざるを得ない。  正直、死ぬのは怖い。  もう四十五歳にもなり、自分なりになすべきことをしてきたつもりだ。  ある程度の結果も出ただろう。  だがそれでも、怖いものは怖い。  なぜこんな所で、一人で死んでいくのだろう。  そう思うとやりきれない。  仕事としてあるいは人として、そうせざるを得ないからそうしているだけであって、できることなら女をはべらせて酒でも飲んでいたい。  それに、重圧だ。  背負うものが、巨大すぎる。  この書を読むあなたにも、似たような重圧を与えることになるだろう。  心残りは色々あるが、心苦しいのはそれだ」  このページはそれまでとは違い、実に人間味のある、平凡な人間としてのソルドがいた。 およそ大賢者と称えられる人とは思えず、どちらかというと自分と似たような、少し斜に構えて拗ねたところのある、しかしそれ故に人の感情にも鋭い人物に感じられた。  ローブは少しだけ気が楽になった。 「リーファが俺とあんたは似てるって言ってたよ。  軽薄だってさ」  物言わぬミイラに、彼は静かに声をかけた。 大賢者とは言えミイラはミイラ、なにも答えない。 だが、そうすることで、長い時を越えて、一人の友人と話しているような心地だった。 「さて、どうやったら帰れるのかねぇ」  ローブは考えた。 そもそもここはどこなのか。 夢中で封印を解き、大賢者の墓所にたどり着いたが、帰ることまでは考えていなかった。  だが彼は言った。 「どうにかなるさ」  
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加