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ローブとシ・ルシオンが聖地から麓まで下山し、待っていた漆黒の巨馬に行き先を告げると、巨馬はわずかに陰りのある反応を示した。
「マルゴーか」
ローブにもその理由はわかっていた。
「あぁ、あんたがその姿になった所だ」
ローブは一瞬迷ったあとで、そう返した。
彼は伏し目がちだった。
シ・ルシオンは、相変わらずほとんど何も喋らないから、山上で何があったか、オデュセウスには全くわからなかった。
ただ分かるのは、ローブが珍しく落ち込んでいるということだった。
「私のことは、気にしなくて構いません。
私の故郷はホルツザムの片田舎です。
あの場所は、マイクラ・シテアに連れていかれただけです。
まぁ多少、複雑な気分になるかもしれませんが、私にとってそれ以上の場所ではないのです」
穏やかなオデュセウスの声が脳裏に直接響く。
ローブは弱々しく笑った。
「そう言ってくれると、助かる」
ローブは馬車に乗り込み、深いため息をついて、自分の椅子に座った。
続いて巨人も乗り込む。
彼は立ち乗りの御者台にまたがる。
魔馬車は金属のきしみを響かせながら、旧街道を駆けた。
ある時は田園を、ある時は山間を。
だがその間、元々無口なシ・ルシオンだけでなく、ローブもあまり口を開かなかった。
ガラシェからマルゴーは、歩けば一ヶ月近くかかるが、オデュセウスなら二日足らずだった。
マルゴーは、辺境の地である。
乾燥した地域で、岩場と赤土が目立つ。
砂漠の数歩手前、といった場所だ。
人はほとんど住まない。
だがここに、遺跡がある。
大きなものではない。
しかし、石造りで随分立派な建物が、数年前まであった。
オデュセウス自身が、その中心となる建物を破壊した。
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