1人が本棚に入れています
本棚に追加
「駄目だ、わからねぇ。
どうやったら入れるかぐらい、ついでに訊けばよかった」
ローブは頭を掻いて、顔を子供のように歪めた。
過去百年、幾多の考古学者やまじない師、あるいはマイクラ・シテアのような本物の魔導師をも拒み続けてきたのだ。
大した知識のない彼が、そう簡単に扉を開けるとは思えなかった。
「また女神様に頭を下げるか?
果たして口を割るのかねぇ」
先日はいやがるリーファを脅すような格好で、ソルドの墓の場所を聞いた。
最後の書のことではない、という論理で攻めた。
だが、そうそう繰り返せないだろうし、やりたくもなかった。
「男だったら平気なんだが、女にするのは、悪者になる気がして嫌なんだよな」
到着してからしばらくは、ぶつくさ言いながら歩いていたが、やがてローブは、疲れの限界もあり、馬車に積んである毛布を引っ張り出し、横になった。
「悪いが、俺はもう寝るよ」
そう言って彼は、拗ねたように寝入ってしまった。
夜になり、少し風が出た。
この辺りは温暖ではあるが乾燥した地域であり、砂漠ほどではないが幾分冷え込む。
シ・ルシオンは近くで木切れを集めて、火を起こした。
オデュセウスは、静かにその様子を見守っていた。
シ・ルシオンは火のそばで、巨大な剣を傍らに置き、横になる。
ふと思い立って、オデュセウスは尋ねた。
「シ・ルシオン、あなたは記憶がないと言った。
怖くないのか」
戦士は少し考え、答えた。
「怖れる理由がない。
現に俺は、過去に殺されるわけでもなく、生きている」
「過去に関わった人のことは、気にならないのか」
「気にしても仕方ない。
何も起こらない」
オデュセウスは言葉に詰まった。
だが、彼はこの戦士が、ひどく孤独な存在に思えた。
オデュセウスは、ホルツザムの先鋒突撃隊長として、多くの結果を残してきた。
しかしそれに伴い、感覚を共有できる相手が減っていった。
シ・ルシオンは、極めて優れた戦士であり、それ故多くの恨みを買っていて、しかし戦いをやめない。
そして誰かに理解してもらおうともしない。
ただただ、戦う。
その孤独は、想像を絶した。
「あなたは、何のために戦うのだ」
さらにオデュセウスは尋ねた。
最初のコメントを投稿しよう!