ソルドの墓

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「駄目だ、わからねぇ。  どうやったら入れるかぐらい、ついでに訊けばよかった」  ローブは頭を掻いて、顔を子供のように歪めた。 過去百年、幾多の考古学者やまじない師、あるいはマイクラ・シテアのような本物の魔導師をも拒み続けてきたのだ。 大した知識のない彼が、そう簡単に扉を開けるとは思えなかった。 「また女神様に頭を下げるか?  果たして口を割るのかねぇ」  先日はいやがるリーファを脅すような格好で、ソルドの墓の場所を聞いた。 最後の書のことではない、という論理で攻めた。 だが、そうそう繰り返せないだろうし、やりたくもなかった。 「男だったら平気なんだが、女にするのは、悪者になる気がして嫌なんだよな」  到着してからしばらくは、ぶつくさ言いながら歩いていたが、やがてローブは、疲れの限界もあり、馬車に積んである毛布を引っ張り出し、横になった。 「悪いが、俺はもう寝るよ」  そう言って彼は、拗ねたように寝入ってしまった。  夜になり、少し風が出た。 この辺りは温暖ではあるが乾燥した地域であり、砂漠ほどではないが幾分冷え込む。 シ・ルシオンは近くで木切れを集めて、火を起こした。 オデュセウスは、静かにその様子を見守っていた。  シ・ルシオンは火のそばで、巨大な剣を傍らに置き、横になる。  ふと思い立って、オデュセウスは尋ねた。 「シ・ルシオン、あなたは記憶がないと言った。  怖くないのか」  戦士は少し考え、答えた。 「怖れる理由がない。  現に俺は、過去に殺されるわけでもなく、生きている」   「過去に関わった人のことは、気にならないのか」 「気にしても仕方ない。  何も起こらない」  オデュセウスは言葉に詰まった。  だが、彼はこの戦士が、ひどく孤独な存在に思えた。  オデュセウスは、ホルツザムの先鋒突撃隊長として、多くの結果を残してきた。 しかしそれに伴い、感覚を共有できる相手が減っていった。  シ・ルシオンは、極めて優れた戦士であり、それ故多くの恨みを買っていて、しかし戦いをやめない。 そして誰かに理解してもらおうともしない。 ただただ、戦う。 その孤独は、想像を絶した。 「あなたは、何のために戦うのだ」  さらにオデュセウスは尋ねた。
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