ソルドの墓

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 戦士はしばらく考えていたが、やがて言った。 「俺は戦いたいから戦う」  それ以上戦士は何も言わなかった。 オデュセウスは戸惑ったが、しかしそういう事もあるのかと、何となく納得した。 また、何かしらの理由がなければ戦えない、例えば国のためとか、人々のためとか、そういうのが必要な自分とは、決定的な違いを感じた。  深夜、オデュセウスは久々にこの遺跡の空をじっくり眺めた。 あの時と同じだが、あの時はもっと絶望していた。 今は、仇敵であるはずの戦士と行動を共にし、次の生き方をしている。 不思議だった。 「うぅ、寒い」  ローブが目を醒ました。 彼は伸びをして、オデュセウスの方を見た。 「お陰でよく寝たよ。  もう野宿にも慣れた」  彼は毛布を抜け出し、また近くをうろつき始めた。 「綺麗な星だ。  北の星がよく見える。  少し低いところに見えるんだな」  ふとその時、ローブは違和感を感じた。 その違和感の原因を探っていく。  ぐるぐると遺跡を早足で歩き、そして答えが出た。 「何でここには、三つ又槍がないんだ?」  オデュセウスの所に戻ってきて、ローブは尋ねた。 「あんた、ここで三つ又槍を、見たことがあるか?  トルキスタ聖教の施設には、かならず真北に向けた三つ又槍があるはずなんだ。  ここは大賢者ソルドの墓なんだ。  なくてはならないんだ」  彼はまくし立てた。 だがオデュセウスは、そんな記憶がなかった。  声に気づいてシ・ルシオンも起きる。 「俺は見ていない。  地形にもそれらしいのはなかった」  戦士は、戦場を把握するように、この場所を正確に把握していた。 彼が言うことは、恐らく信頼できた。 「北は、あぁあれだ、あの星だ」  北の星が、低く、白く煌めいている。 ローブはそれを見据えながら、遺跡をゆっくりと歩いた。 破壊された建物のホール中央に来たとき、星の真下に、灯籠のある小さな建物のひとつが揃った。  左右を見ると、少し北に二つ、少し南に二つ、同じ建物がある。 「これは、槍だ」  しかし柄がない。  南に振り返る。  視線の先には、闇しかない。 星空の足元に広がる、乾いた夜の大地。 「火だ」  
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