ソルドの墓

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 ソルドは、人だった。 魔術にも似たあやかしを使いこなした伝承もあるが、しかし人だった。  ローブは慎重にソルドの遺体に近寄り、彼が記した古文書を静かに滑らせた。 本もミイラも保存状態が良い。 本は崩れることもなく、簡単に持ち上げられるぐらいだった。 文字は、既に見慣れた筆跡、すなわちバザ大聖堂にあった古文書と同じ筆跡だった。  ローブは古文書のページを慎重にめくり、その冒頭を読み始めた。  最初に彼の目に飛び込んで来たのは、 「ここまで辿りついたあなたの情熱に感謝する」 という言葉だった。 「始めに、この空間のことから説明する。  神や魔王、冥王がもっとも恐れた精霊の王ハルバン、そして今は亡きかの王の力を引き継ぐ王女リーファ。  ここは彼女の持つ究極の能力を除き、ありとあらゆる力を拒絶する結界である。  ブサナベンのごときあやかしの類いはもとより、魔王、ひいては全てを見る神の目でさえ、この場所は拒絶する。  まずはこれを作った偉大な魔導師ルクフェルに感謝したい。  これから、この結界の中でしか伝えられぬ、極めて危険なことを伝える。  私は信じる。  あなたがこの世界を裏切らぬことを、信じる」  ローブは少しため息をついた。 「随分重いね」  彼はためらった。 これ以上この本を読み進めても良いものか。 しかし読み進めれば、確実に大賢者ソルドの遺言を背負うことになる。 すなわちそれは、この世界の命運を背負うことに他ならない。 「大賢者」とまで呼ばれた人が後の世の託した世界の命運。 それは、途方もない重圧に感じられた。 「ちっ」  ローブは舌打ちした。 「死ぬのは嫌だ。  この世界が滅ぶのもまっぴらだ」  ふと彼の脳裏に、闇の魔導師の姿が浮かんだ。 魔導師の目論む魔界門の解放。 千年前、同じことを考えた大魔導師ブサナベン。 それを食い止めたトルキスタの三聖人。 そしてソルドが徹底的に隠した、神にさえ隠した何か。 「わかったよ、大賢者様」  ローブは腹を決めた。 「読めばいいんだろ、読めば」  ローブは天井を仰いだ。 そして、半ば絶望に似た気持ちで、大賢者ソルドのミイラのそばにあぐらをかき、古文書を読み始めた。  数ページを読めば、彼はその内容に驚愕した。 そこにあったのは、トルキスタ聖教の神話であった。 だがそれは、彼の知るどんな古文書にも出てきたことのない内容だった。
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