ソルドの墓

9/11
前へ
/11ページ
次へ
「あの旦那は、一体何なんだ?」  それについては、さらに記述がある。 「神は魔に対し絶対ではない。  何故なら魔王は創造神トルキスタの分身。  よって戦士は、強力な魔封じの力を備えた。  いずれ神がこの地上を乗り越え、魔界に侵略する際、魔封じの力が神の大きな補助となる。  私は神にそう提案し、神はそれに応じた」  それはありふれた終末論にも思える。 しかしそれに関与する人間が、あまりに身近にいる。 その事が、ローブをこの上なく不安にさせた。  しばらく読み進めると、リーファについての記述が出てきた。 「大精霊ハルバンの娘として誕生したリーファは、ハルバン亡き後、実質この世界の精霊の頂点に立つこととなった。  とは言え彼女はあの通り野心もなく、ただこの地上が平和であることを祈るだけの、可憐な乙女に過ぎない。  だが彼女は、神や魔王さえ凌ぐ究極の力を二つ備えている。  一つは全てを知る力。  もう一つは、氷の封印。  私が今回の争乱の原因について、もう少し早く気づいていれば、彼女の力を用いて、後の世に禍根を残さずに済んだだろう。  だが、今はこの書に全てを込め、後世の賢人に託すしかない」  ローブの予想は的中していた。 千年前の戦いは、まだ決着していない。 だからこそ再び魔界門の解放を目論む魔導師が現れ、シ・ルシオンという超戦士が現れた。 彼らは戦う運命にある。  そしてソルドが残した遺言を、今回の戦いで何とか実現しなければならない。 「でないと、この世が滅ぶ、か。  そこへ現れたるは救世主ローブ様?  こんな本、見つけるんじゃなかった」   ローブは本を置き、石の腰掛けから降りて、美しく磨かれた光る床に寝転がった。 視界の端に、大賢者ソルドのミイラが入る。 「あんた、軽薄な感じだったって?  俺と似てるって、リーファが時々言ってる。  戦争孤児ってのも一緒だ。  だから俺も、運命の子?  たまたまだってぇの。  あんたの本に俺は出てこないし、俺はきっと、あんたほど切れ者じゃない。  その辺の不良さ。  あんたとは違いすぎる。  死ぬ間際までこんな本を書いて、一人で死んでいくのに耐えられるほど、俺は強くないよ」  彼は天井を見つめ、しばらくそのままでいた。 が、やがて起き上がり、もう一度石の腰掛けに、ミイラと隣り合わせで座り、本を読み進めた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加