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「あの旦那は、一体何なんだ?」
それについては、さらに記述がある。
「神は魔に対し絶対ではない。
何故なら魔王は創造神トルキスタの分身。
よって戦士は、強力な魔封じの力を備えた。
いずれ神がこの地上を乗り越え、魔界に侵略する際、魔封じの力が神の大きな補助となる。
私は神にそう提案し、神はそれに応じた」
それはありふれた終末論にも思える。
しかしそれに関与する人間が、あまりに身近にいる。
その事が、ローブをこの上なく不安にさせた。
しばらく読み進めると、リーファについての記述が出てきた。
「大精霊ハルバンの娘として誕生したリーファは、ハルバン亡き後、実質この世界の精霊の頂点に立つこととなった。
とは言え彼女はあの通り野心もなく、ただこの地上が平和であることを祈るだけの、可憐な乙女に過ぎない。
だが彼女は、神や魔王さえ凌ぐ究極の力を二つ備えている。
一つは全てを知る力。
もう一つは、氷の封印。
私が今回の争乱の原因について、もう少し早く気づいていれば、彼女の力を用いて、後の世に禍根を残さずに済んだだろう。
だが、今はこの書に全てを込め、後世の賢人に託すしかない」
ローブの予想は的中していた。
千年前の戦いは、まだ決着していない。
だからこそ再び魔界門の解放を目論む魔導師が現れ、シ・ルシオンという超戦士が現れた。
彼らは戦う運命にある。
そしてソルドが残した遺言を、今回の戦いで何とか実現しなければならない。
「でないと、この世が滅ぶ、か。
そこへ現れたるは救世主ローブ様?
こんな本、見つけるんじゃなかった」
ローブは本を置き、石の腰掛けから降りて、美しく磨かれた光る床に寝転がった。
視界の端に、大賢者ソルドのミイラが入る。
「あんた、軽薄な感じだったって?
俺と似てるって、リーファが時々言ってる。
戦争孤児ってのも一緒だ。
だから俺も、運命の子?
たまたまだってぇの。
あんたの本に俺は出てこないし、俺はきっと、あんたほど切れ者じゃない。
その辺の不良さ。
あんたとは違いすぎる。
死ぬ間際までこんな本を書いて、一人で死んでいくのに耐えられるほど、俺は強くないよ」
彼は天井を見つめ、しばらくそのままでいた。
が、やがて起き上がり、もう一度石の腰掛けに、ミイラと隣り合わせで座り、本を読み進めた。
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