ドバイルの戦争

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 すぐに小姓は部屋を出て、伝令に走った。 「利用できるものは利用せねばな。  実際にルビアも、狼煙に救われている」  彼の脳裏に、獅子のようなたてがみの巨人が浮かぶ。 「やむを得ぬ」  全ては国のため。 母国ベイシュラの発展維持のため。 過去の因縁は、この非常事態においては、とりあえず棚上げすることにした。  翌朝、ゴートはグロンホーム城下の奴隷の数を報告させた。 一万足らず。 「一日百人として、大体百日か。  十分すぎるな。  その間にトルキスタから救援が来る」  ひとまず算段が立ち、ゴートは胸を撫で下ろした。  さて正午。 約束通り、城門のところに例の紳士の魔物が現れる。 衛兵たちが丁重に出迎え、数十名の衛兵が周りを固めた状態で、魔物が広い城内を歩く。 さながら魔物が武将の様だ。  謁見の間に到着。 しばらくしてゴートが席につく。 「拝謁賜り、恐悦至極」  魔物はひざまずいたままそう言い、喉の奥で小馬鹿にしたように笑う。 「ホロラド殿、前置きは抜きにいたす。  昨夜の要求について、当方としては、日に百名をそちらに献上することとした」 「ほう、市民を」  間髪入れず、魔物が応える。 「あぁそうだ、一つ言い忘れていたのですが、我々は奴隷を市民とは考えておりません。  ご存じの通り奴隷は商品ですからね。  我々の要求は、あくまでも市民を火炙りにすることです」  ゴートの全身から脂汗が吹き出した。 「馬鹿な!」  奴隷ならそれほど打撃はないと考えていた。 ゴートは魔物が言うとおり、奴隷は商品つまりは物だと考えていたし、物なら少々焼かれても、と考えた。 「それにしてもあなたも悪魔ですよ。  同じ人間なのに、奴隷なら死んでも平気とは。  どうせ占領地の市民についても、同じ程度にしか考えていないのでしょうなぁ。  あなたは我々の同胞になった方が、人間づらしてるよりもよっぽどふさわしい。  いつでも国のためと言いながら、大切なのは自分。  自分自分自分。  この下衆が!」  ゴートは震えと脂汗が止まらなくなった。 全て図星だった。
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