0人が本棚に入れています
本棚に追加
すぐに小姓は部屋を出て、伝令に走った。
「利用できるものは利用せねばな。
実際にルビアも、狼煙に救われている」
彼の脳裏に、獅子のようなたてがみの巨人が浮かぶ。
「やむを得ぬ」
全ては国のため。
母国ベイシュラの発展維持のため。
過去の因縁は、この非常事態においては、とりあえず棚上げすることにした。
翌朝、ゴートはグロンホーム城下の奴隷の数を報告させた。
一万足らず。
「一日百人として、大体百日か。
十分すぎるな。
その間にトルキスタから救援が来る」
ひとまず算段が立ち、ゴートは胸を撫で下ろした。
さて正午。
約束通り、城門のところに例の紳士の魔物が現れる。
衛兵たちが丁重に出迎え、数十名の衛兵が周りを固めた状態で、魔物が広い城内を歩く。
さながら魔物が武将の様だ。
謁見の間に到着。
しばらくしてゴートが席につく。
「拝謁賜り、恐悦至極」
魔物はひざまずいたままそう言い、喉の奥で小馬鹿にしたように笑う。
「ホロラド殿、前置きは抜きにいたす。
昨夜の要求について、当方としては、日に百名をそちらに献上することとした」
「ほう、市民を」
間髪入れず、魔物が応える。
「あぁそうだ、一つ言い忘れていたのですが、我々は奴隷を市民とは考えておりません。
ご存じの通り奴隷は商品ですからね。
我々の要求は、あくまでも市民を火炙りにすることです」
ゴートの全身から脂汗が吹き出した。
「馬鹿な!」
奴隷ならそれほど打撃はないと考えていた。
ゴートは魔物が言うとおり、奴隷は商品つまりは物だと考えていたし、物なら少々焼かれても、と考えた。
「それにしてもあなたも悪魔ですよ。
同じ人間なのに、奴隷なら死んでも平気とは。
どうせ占領地の市民についても、同じ程度にしか考えていないのでしょうなぁ。
あなたは我々の同胞になった方が、人間づらしてるよりもよっぽどふさわしい。
いつでも国のためと言いながら、大切なのは自分。
自分自分自分。
この下衆が!」
ゴートは震えと脂汗が止まらなくなった。
全て図星だった。
最初のコメントを投稿しよう!