ドバイルの戦争

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 翌日から、軍による無差別な市民狩りが始まった。 兵士たちは、犠牲者を連行する際、 「仕方ないのです。  魔物の要求は三種類あって、ゴート総帥は、自らの命を差し出すのが嫌で、市民を火炙りにすることを選んだのです。  ゴート総帥ただ一人が犠牲になれば、市民は誰一人犠牲にならずに済んだのですが」 と、犠牲者の家族にわざわざ告げた。 これは魔物が兵士たちの意思を操作していたからである。 しかし市民はそんなことは知らない。  二日後には暴動が起こった。  暴動には奴隷たちも便乗し、騒ぎは一気に拡大する。 軍が制圧に乗り出すが、市民の怒りは抑えられない。 程なくグロンホーム市街は、軍と市民が激突する地獄に変わった。  さらに二日後には、市民が城に攻め入り、ゴートが捕らえられる。 「裏切り者!」 「裏切り者のゴートを殺せ!」  ゴートは市街の中心広場に引きずり出され、無数の市民に暴行された。 程なく彼は死に、首が広場に掲げられた。 他にも彼の取り巻きたちが次々に殺された。  翌日にはベイシュラの正規軍はグロンホームを撤退。 占領下にあった地域では次々に反乱が起こった。 ベイシュラの野望は、簡単に壊れた。  数日後、トルキスタ教皇庁からの救援として、シ・ルシオンとオデュセウスが現れるが、その頃には事は既に終わっており、天空の黒い円も消えていた。 彼らは無意味と知るとすぐに引き上げ、代わりに数週後、トルキスタ聖騎士団が到着し、治安維持活動を展開した。 「面白い芸よのぅひゃひゃひゃ」  マイクラ・シテアは、手に持つ杖に話し掛けた。 赤くぎらつく宝玉を埋め込んだ禍々しい杖は、少し嘆息して応える。 「地位が好きな人間を消すことなど、取るに足らないのです。  何故なら彼ら自身が、取るに足らないからです」  冷めた口調で杖は返す。 歴戦の猛将として名高いゴートを手玉にとっても、別段の感動はないらしかった。 「取るに足らんとな。  まぁ、わしにはどうでもいい。  そんなことより、船は三二八一個の魂を食った。  まぁまぁ、上出来じゃろうぅひゃひゃひひ」  マイクラ・シテアは、杖の上に映像を映し出し、そこにうごめく化物を愛でるように眺めた。  
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